第21話 ウルフダンジョン③
続けて餌をあげると、すぐに卵に変化が起きた。
+3×3で+9になる。
成長値は20/30だったので29にしかならないはずが、先ほどの戦闘の経験値を吸ったのか30/30になっていた。
一緒に行動してれば成長するのか。
まぁ卵の段階で餌を与えられるなんて思わないもんね。
あの現象は謎だよねぇ。卵に近づけるとスッと消えるんだもん。
ピシリ、ミシミシ。
縦に垂直にヒビが走り、左右に分かれた殻から誕生したのは、
犬の足が生えた卵だった。なんと、二足歩行である。
うーん、珍妙。
孔雀君の時も感じたけど、この珍妙具合は映えそうだ。
ある意味で話題にはなると思うよね。
「さて、いつまでも抱えてるわけにも行くまい。君も自分の足で動きたいだろう?」
<概要:いいの?>
「もちろんだとも。でも危ないところに行ってはだめだよ? 何かしたい時は一言いいなさい」
<概要:ありがとう!>
めちゃくちゃ素直でいい子なんだよね、この子。
しっかり育てなきゃと思う。
しかし成長が1/50になって行動力が増えた。
例の孔雀君はよく転んでいたっけ。
この子も転びそうで怖いなぁ、なんせボディに対してバランスの悪い犬の足だもの。よく立ってられるよね。
「さぁて、行くよキャディ」
<概要:うん!>
受け答えは良い。けど案の定気持ちが先走ってよく転んだ。
子育て時代を思い出すよね。
妻に預けっぱなしで実際には子守もしてこなかった私にできるか不安も大きいが、人間と違って成長が早い。
すぐに大きくなるって確信がある。
ウルフダンジョンは始まりのダンジョンと違ってすぐに道が分かれた。
まさかの5wayである。
十字路ですらない。さらに斜めに刻まれた道が、方向感覚を狂わせる。
なので壁に文字を掘る。
入ってきた道の方角に矢印を書き、入り口とした。
そして向かって一番右端に1と番号を振る。
「さて、私はこちら側に行くよ」
<概要:こっち?>
キャディが不思議そうにその空間を見る。
おっとこれは?
始まりの壇上同様に隠し通路の類かな?
何はともあれ私達は進むしかないんだよね。
「キャディ、かけらとお肉。食べるならどっちが良い?」
<概要:お肉!>
「よぉし、討伐頑張ろうね」
1と刻んだ通路の上に、各疎通との可能性を考えて入り口の空間に間取りを刻む。後から来た人に分かりやすいようにだ。
後で文句言われても反論できるようにとも言える。
早速青色のウルフと遭遇。
属性は水か。ならばこちらも属性を変えないと。
火は水に聞きづらい。
「君にこれが効くかはわからない。でも念の為飲んでくれる?」
<概要:キャディにスライムドリンク(緑)を付与しますか?>
キャディは返事をせず何か別の意思が介在してくる。
ここで割れてしまったら元も子もないからね。
もちろんイエスだ。
すると、付与した卵が青みがかった。同様に属性も木に変化した。
よし、これで大丈夫だ。そう思ってる矢先、頭の中に言葉が流れ込んでくる。
<キャディはスキル:『根を張る』を覚えました>
おっと、宝石以外でもスキルを獲得するのか。
まさか完全生体になる前にスキルを覚えるとはね。
だがこれで安全に戦える。
「キャディ、水の攻撃が来たらスキルを使って吸い取ってくれるかい?」
<概要:頑張る!>
私は同様にスライムドリンク(緑)を服用し、スライムコア(緑)をパタークラブに付与させてもらった。
青色のウルフはやはり水の魔法を使った。
だがただ水を周囲に撒くだけの無駄な行為のように思えてしまう。
一匹、二匹と倒して行く。
さて残りの一匹と迫った時のことだ。
「──ガァアアアウ!」
背後から葬ったはずの青色ウルフが襲いかかってきたのだ。
<概要:お父さん!>
直撃を喰らったが、木属性になってる私にその攻撃は通用しないよ?
構えていたパターを軸に、体重をかけて素早くその場から飛び退いた。
対象を失った青色ウルフが、お仲間とごっつんこしたら儲けものぐらいに思ってたが、バシャッと弾けてくっついた。
おやおや?
どうにも様子がおかしいなと思っていたら、青色ウルフが巨大化してしまったではないか。
その現象に心当たりがありすぎた。
ああ、このウルフ。肉体を水に溶け込ませることができるか?
そして液状になった部分を飛ばしていくらでも個体を増やすのだ。
ウルフの形をしてるだけで肉体構造はスライムに近い。
そうと分かればやる事は一つ!
「キャディ! おやつの時間だよ! そのウルフにそっくりな水の塊を吸い尽くしてしまいなさい!」
<概要:はーい>
哀れ青色ウルフは一匹残らずキャディのおやつになった。
効率最良すぎじゃない、この子?
スキルを覚えてからの活躍しっぷりが通常モンスターの比じゃない。
そして成長値の伸びも恐ろしく早くなった。
成長:12/50
一匹あたり+4か。
好物より+1多いのはすごいなと思う。
そして足の裏に根を張れる様になってからはなんと転ばなくなったのだ。
一粒で二度美味しい、そんなスキルだった。
「美味しかったかい?」
<概要:うーん、お肉の方が良かったな>
成長は早いが不本意って感じだね。
あんまりこれを多用しすぎても良くないか。
なるべくならキャディの要望をどれだけ叶えるかが成長の鍵になると思う。
速度ばかりを重視するのは危険な気がするなぁ。
続くウルフは普通に討伐して肉をドロップさせた。
肉アイテム消費の方が喜んでくれるのは、獣だからだろうか?
足の裏から根っこを生やす獣が果たしているのか定かではないが、ダンジョンなんて不思議な場所で常識を持ち出したらキリがない。
メモにまとめて後続の糧とするくらいで良いでしょ。
あとはカネミツ君やダンジョン支部がやってくれるさ。
私はいつも通り過ごせば良い。
そして行き止まりへと突き当たる。
隠し部屋の類かと思ったら普通に行き止まりだ。
壁や床を削っても出てくるのはかけらぐらい。
天井は、ジャンプすれば届くかな?
<概要:お父さん、どうしたの? 天井に何かあるの?>
「何かあったら良いなと思ってね」
<概要:僕、足場になるよ>
「大丈夫? 割れやすいと聞いてるよ」
<概要:攻撃してこないなら平気だよ>
と言う事でキャディを足場にして天井の採掘を開始。
光苔や水晶と違い、採掘ポイントが見えないのが厄介だ。
が、表面から15センチ削ったあたりで黄色のかけらが落ちてくる。
┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
アイテム/サファイアのかけら
合成素材【錬金術師】
テイムモンスターの餌【テイマー】
┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
やはり狙った通り。
色違いの宝石のかけらが現れた。
これで赤・青・緑が揃ったな。
早速キャディに投入すると性格に変化が現れる。
ルビーが勇敢、エメラルドが温厚。
そしてサファイアは冷静だった。
今、キャディの性格は温厚だ。
サファイアのかけらを10個投入して成長をまで加速して冷静になったキャディは、先ほどまで心優しい性格だったのとは打って変わって反抗期の様な態度を取り始める。
<概要:父さん、僕カケラはあまり好きじゃないと言いましたよね?>
正直、この状態が続くと心を病みそうになる。
嫌ね、うちの長女と次女がこう言う態度なんだ。
三女の由香里だけが優しいのに、キャディにまでこんな態度されたら私はリアルダンジョンになんの望みも抱けなくなってしまうよ。
そのあと軌道修正を図って緑色のウルフを乱獲。
やはり緑色の肉を食べれば性格にも影響が出る様だ。
<概要:パパ大好き!>
温厚どころか甘えん坊になってる気がするのは気のせいだろうか?
そして、第二の孵化が始まった。
モンスターとの戦闘以外に、餌の投入、モンスター肉の投入が大きな成長ポイントで。
果たしてどんな姿になるのか。
縦にヒビが入って出てきた姿は……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます