第17話 エッグダンジョン②
奥に広がった通路に向かって卵が歩いていく。
細い一本道を越えると先ほどの小部屋より大きな空間。
卵はトテトテ歩いた後、壁に向かって嘴をコツコツ叩いてからこっちを向く。
「アレは一体なんでしょうか?」
「あの壁に何かある?」
「あるいは向こう側に行きたいのかもしれませんね」
「早速武器を置いてきたのが仇になったね」
「武器を持ってたってダンジョンの壁は壊せませんよ?」
回転氏が何を入ってるんだと真顔で答えた。
そっか、普通はそう考えるのか。
「いや、実はダンジョンの壁は削れるよ。始まりのダンジョンは武器グレードⅤで削れたからね」
「それ、新事実じゃないですか?」
「いずれ気付かれるさ。それよりどうしようか? 武器は置いてきてしまったし。そもそもどうして武器を持ってると怖がるんだろう。回転氏は分かる?」
「多分ですが……」
恐る恐る答えた事実。
それは攻略を焦った彼らが使用して卵を破壊した武器種に苦手意識を持っているのではないかという憶測だった。
逆に言えば恐れない武器もあるということか。
「回転氏、スコップとか用意できる?」
「支部に戻ればあると思いますが。まさかそれで掘るつもりですか?」
「ツルハシとか持ってきてないでしょう?」
「採掘も兼ねて持ってきてますが……」
「攻撃しちゃった?」
回転氏は申し訳ないとばかりに頷く。
となると、これは卵を攻撃した武器種はずっと限定され続けるのか。
後に回すごとに面倒になっていくタイプだぞ、これは。
「私は自分の武器を取りに行く」
「小官たちはどうしますか?」
「まずはスコップ。それと武器の代わりになる警棒なり持ってきなさい。強化素材は私の方で提供する。ボスまでの道のりはこの卵次第だが、生まれた中身がボスの可能性もある」
「もしかして、小官達はやってはいけない事をやってしまった感じでしょうか?」
「逆に言えば相手の弱点を事前に作ったことになってる。問題はボス戦までその武器種を封印させられるギミックにあるか」
「考え方次第と?」
無難に頷いておく。
まだここらへんは憶測でしかないからね。
断定はしない方がよさそうだ。
少し現場を離れ、持って行っても大丈夫そうな武器の厳選をする。
やはり私のパターは平気なようだ。
回転氏は警棒とスコップ。それとなぜか金属バットを持ってきていた。
振り回すつもりだろうか?
「VR甲子園で鳴らしたもので」
「まずは成長を見守ることからしませんと」
「そうでしたそうでした」
この人大丈夫かなぁ?
「このダンジョンはぼんやり明るいけど、光苔はないんだね。採掘ポイントが見当たらないや」
「見えないだけではないと?」
「もしかしなくとも卵の成長次第で見えて来るタイプだと思う。本当に初見殺しの連続だ」
「笹井さんでもここは難しいですか?」
「スライムダンジョンは分かりやすかったからね」
壁の向こうには通路があった。
しかし卵は生まれ変わらず、似たような壁を2回ほど壊すとようやく孵化。
今度は翼が生えた。
と、同時、採掘ポイントが現れる。
「回転氏、採掘ポイントが出た」
「三段階目でようやくですか?」
「これで上司への報告書は少しマシになるかな?」
「採掘品次第でしょうな。そちらは任せても?」
「その前に卵はどこ行きました?」
「あれ、いない」
採掘ポイントに意識を向けてたら、翼を授けられた卵が見つからない。
「あそこ!」
「ああ、天井付近にいました。これ、光苔とってたら見つけられなかったよ?」
「嫌なタイミングで解放してきますね」
「まるで目先の欲に飲まれた者を嘲笑うかのようだ」
「本当に、笹井さんが来てくれなかったら踏破出来ずじまいで」
「私だって手探りばかりさ。君だってそうでしょ?」
こくりと頷く回転氏を励まし、卵の後を追いかけた。
「アレは……巣、でしょうか?」
「卵なのに巣?」
天井スレスレを飛行する卵は、私たちの手伝いによってその巣へと帰り、最後の孵化を終えた。
そして、美しい羽を持つ孔雀の姿を見せてくれた。
孔雀はこちらを見定め、一際大きく翼を広げると、虹色の卵を二つ残してダンジョンの天井を突き抜けてどこかへ飛んでいってしまった。
「アレは、なんだったんでしょう?」
「この卵は報酬でしょうか?」
ズズズズン……
卵を手にした私たちの目の前、壁だった場所に鳳凰が描かれた扉が現れる。
ボス部屋だろうか?
その前に入手アイテムの内容を読み取る。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
アイテム/謎の卵
ジョブ:テイマーにのみ孵化させることが可能
孵化させる場所によって能力値が変わる
孵化させるまでの行いで見た目と性格が変化
孵化させた存在は帰属アイテム扱いとなる
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「何かわかりましたか?」
「テイマー専用アイテムの様だ。テイマーというjobの情報は?」
回転氏は首を横に振るう。
「答えはこの扉の奥にありそうだ。私はここで様子を見守る。回転氏はお仲間を連れて来て、流石に難度★★☆は初めてだ」
このダンジョン、ボス部屋の扉に触れるまで一切難度情報が現れなかった。
最初の卵をどう成長させるかで難度が変わるなんて最後の最後まで初見殺しで嫌になる。
「笹井さん、壁が塞がれて入り口に戻れません! 今の武器グレードではびくともしなくて!」
「なんだって!?」
初めの武器縛りは本当の意味で難度調整だったか。
もしかして苦手武器じゃなく、無効武器を増やしていた形か?
こっちの行動次第で強敵が生まれるダンジョン。
「こうなったら腹を括るしかないか。回転さん、レベルは?」
「8です」
「ならチュートリアル中だね……どこかでレベル上げた?」
「他所のダンジョンで世話になりました」
「功を焦ったね。だが、即死は免れる。私は17だ、即死は免れない」
「お強いんですね」
「踏破回数三回なら普通さ」
「まだ10日ですよ? もうそんなに。流石ゴールドランクですね」
「運が良かっただけさ。ここから先は未知の領域。油断せずに行こう」
「はい!」
扉の向こうには先ほど卵を残して飛び立った孔雀、もとい鳳凰が立ち塞がった。ただ見下ろされてるだけなのに、重圧に押しつぶされそうだ。
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