第18話 振り出しに戻る
重度の威圧が止んだ後、まだその時は早いとばかりに不死鳥は舞い上がり、重く閉じたはずの入口が解放された。
「こうなった原因は何かわかります?」
「これかな?」
懐から取り出したのは虹色の卵。
先ほど手に入れたばかりのやつである。
「テイマーになってから出直してこいと?」
「どうやらその様だ。そして卵の保有者以外にボス部屋の扉は開かないと」
先ほど私が手を触れた瞬間に開いた扉。
同時に他の扉が閉まってしまうトラップまで併発した。
「じゃあどうしてボス部屋の扉が開くと他の通用口が閉まる仕掛けに?」
「テイマーとしての力量を見極める為に余計な邪魔立てをされたくないのでは?」
「そんな高潔な存在がダンジョンのボスとして君臨してるんですか?」
「ダンジョンの事なんて私にはわからんよ……ん?」
入口の方に足を向けると、最初の部屋に卵が置かれていた。
一抱えあるほどの大きな卵だ。
「これは?」
「ああ、当時もこの様に卵が置かれてたんですよ」
「なるほど、じゃあそれをここの売りにしよう」
「ボスを倒してないのに売りになりますか?」
「テイマーになれる権利だ。道中にモンスターは居ないし、お金は手に入らないけどお助けモンスターは手に入る。どうかな?」
「ここから生まれてくるモンスター次第な気がしますが」
だろうね、売りにするなら中身を知る必要がある。
取り分けてペット的な存在、あるいは相棒かな?
AWOでは大量に持ち込んで絨毯爆撃とかしたっけ。
こっちのモンスターも同様かは生まれてくるまではわからない、か。
「じゃあ、我々で導いてやるとしますか」
「そうですね。モンスターのいないこの場所では難しいでしょうか?」
「だろうね、抜いた情報からは孵る場所はダンジョンの特色を持つとされる」
「一度支部に情報を持ち帰らせてもらってもよろしいですか?」
「勿論だとも。しかし手助けに来たのに踏破できずに申し訳ないね」
「何をおっしゃいます。我々では大部屋から先に進めませんでした。笹井さんが居てくれたからこそですよ、今こうしてやるべきことが見えたのは」
“倒せなきゃ意味がない”と言われると思った。
上司がイケイケだと部下は慎重派に育つのかね?
まぁ、急かされずに済んで私は助かるけども。
ステータスの閲覧をすればテイマーの条件はいつの間にか達成されていた。
ボスの部屋をクリアしてようやく入手かと思ったら、卵を手に入れた時に手に入れていた様だ。
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ユウジロウ・ササイ
レベル17
称号:スライムキラー、ジャイアントキリング、認められし者
スキルポイント:★★★★★★★
☆☆☆☆☆☆☆☆
ジョブ:セットされていません
┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫
<アイテム・情報>
◯金塊【スキルグレード+1】
◯金塊・大【スキルグレード+3】
◯光苔【武器グレード+1】
◯スライムコア【属性付与・食欲解消+15%】
◯スライムドリンク【属性耐性付与・喉の渇き解消+15%】
赤【火/林檎味】青【水/檸檬味】
緑【木/抹茶味】黒【闇/珈琲味】
金【光/バナナ味】
◯謎の卵【テイム専用モンスターが孵る】
┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫
<武器>
【火】パタークラブ【斬・打】Ⅴ
スコップ【掘】Ⅲ
┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫
<スキル>
コアクラッシュ【斬・壊】Ⅲ
草刈り【斬】範囲Ⅰ
クリーンヒット【打・貫】Ⅰ
食いしばり【減】Ⅰ
チェインクリティカル【打・貫】Ⅰ
┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫
<獲得可能スキル>
☆採掘Ⅰ
☆採取Ⅰ
☆挑発Ⅰ【怒】
☆☆☆煽り芸Ⅰ【怒】範囲
☆☆☆☆☆ドヤ顔Ⅰ【憤怒】
★消火Ⅰ【殴・貫】火特効
★伐採Ⅰ【斬・貫】木特効
★水切Ⅰ【斬・貫】水特効
★剣閃Ⅰ【斬・貫】闇特効
★漆黒Ⅰ【斬・貫】光特効
┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫
<獲得可能ジョブ>
★★★★★錬金術師
★★★★★テイマー
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「ジョブの獲得、スキルポイント重いねぇ」
「小官は獲得無理そうです」
「私はギリギリ可能なので経過観察も含めて連絡を取りたいねぇ。コールアドレスの交換でもしとく?」
「兎にも角にもダンジョンを出てからですね」
「そうだった」
ダンジョン内ではコールなどの連絡手段も通じない。
非常に厄介な仕組みである。
探索支部へ帰還すると、受付のお姉さんと他の調査員が大丈夫だったかと顔を揃えて出迎えてくれた。
「やぁやぁ、皆さんお揃いで」
「お疲れ様です。それで、どうでした?」
「ああ。もしかしたらと頭につくが、このダンジョンはモノになるかもしれないぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、こいつがウチの管轄を助けてくれるアイテムだ」
回転氏が虹色の卵を掲げて見せつけた。
「卵?」
「そう、ここはテイマージョブを解放する為のダンジョンだ。そしてこの卵こそがテイムモンスターの卵である!」
「おお!」
「ちなみにジョブ獲得の際の必要スキルポイントは50だ」
「重っも! え、50も持ってかれるの!?」
「序盤にスキルを獲得しまくるとジョブにつけないまでありますね」
「うわー、先行きは遠いですねー」
回転氏に続いて私が注釈を入れたら、その他全員のやる気が一気に沈んだ。
まぁね、世の中そんな上手い話はないよ。
「ジョブ自体がスキルの上位互換なところあるからね。錬金術師も50だよ、さっき私の方で確認した」
「すいません、サラッと機密情報流すのやめてくれませんか?」
機密、なのかねぇ?
「情報を入手したって今すぐに手に入らないのに。まぁ、もう知り合いにバラしたのでネットに流されるのは時間の問題だよ」
「なんだ、てっきり笹井さんだけが知ってる情報かと」
「そんなわけないじゃない。孫も娘夫婦も知ってるよ」
それ以外は知らせてないけど。
ここは笑って誤魔化そう。
「良かった。それよりもテイマーの情報が知りたいですねー」
チラチラと受付のお姉さんが私に視線を送る。
「そうそう、経過観察も兼ねてコールのアドレス交換でもしようかと戻って来た次第です」
「ありがとうございます!」
「なんのなんの、個人的に生まれてくる子に興味があるからね」
どんな子が出てくるか興味があるのは本当だ。
AWOのテイムは既存モンスターが対象だったからね。
育てる楽しみ的なものは皆無だった。
アドレスを交換したら、ここのダンジョンの売りを考える。
今やダンジョンは管轄内の新しい資源採掘場。
警察の威信をかけて安心と安全、そして売りとなる素材の提供で人を呼び寄せるのが主な仕事である。
踏破者の出たダンジョンの人気は凄いもので、後に続こうと各管轄が奮い立っている。ここのダンジョンも同様に、売りを考えなければ生き残れないのだ。
VR時代になって特に警察の信頼は地に落ちてるからね。
汚名返上、名誉挽回をしようと言う先ぶれである。
「さて、ボス部屋こそ出せたものの、ボスの方がこちらを選別する立場にある」
「選別ですか?」
「うん、ボスにお伺いを立てて許可を得られるのはこのダンジョンで入手した卵を孵したテイマーのみなんだ。なお、ジョブ解放にポイントを50持ってかれるのは今話したよね?」
「はい。じゃあ……このダンジョンはハズレですか?」
ハズレ。資源採掘の見込み無しとでも思ってるのだろうか?
「何言ってるの、長い目で見たらここほど個性的なダンジョンはないよ?」
「個性的ですか?」
パチクリと瞬きをする女性警察官。
「そう、今話題になってる始まりのダンジョン然り、踏破済みダンジョン然り。いつかは忘れ去られていくものだ。しかしここのダンジョンの売りはジョブの入手と相棒であるテイムモンスターの卵の入手。確かに入手スキルポイントこそ思いが、ジョブは付け替え可能。今は先にスキルを優先させるが、レベルが上がってくるとスキルポイントも飽和状態になる」
「ポイント余った時に、こちらのダンジョンに興味を示すと?」
「うん、ジョブは付け替えが可能である。これを知ってる人がどれくらいいるかはわからないけど、わかっているならいくらでもやりようがあるでしょ?」
「確かに!」
錬金術師と違って、ここのダンジョンはテイマー特化。
多分ボスはテイマーにとってテイムモンスターと一緒に乗り越えることで能力を大きく上昇させる試練だろう。
そう言う意味でもやっておくべきことはかなりある。
ハズレと断じて捨て置くのは惜しすぎる。
「さて、では皆さんなら何を売りにする?」
「卵の乱獲、販売辺りでしょうか?」
それもありだが、懸念点が一つある。
「それはやめておいた方がいいね」
「どうしてです?」
「テイマー獲得の条件が卵の入手に繋がってるからだ。卵だけ入手してもテイマーじゃないと孵化させられない、意味がないよ。それよりも卵がどう行動を起こすかを記録して、最終的に何が生まれるかを知っておきたくない? すぐにお金に直結させずに、自分が探索者の立場になって知りたいことを発信していけば自ずと人は集まるよ」
「なるほど。しかし私達はその手の事が不得手で」
「まぁ警察の業務内容外だししょうがないけど、これからはそれで生計立てていくんだから無理とか言ってられないよ? もしお手本が欲しいんなら知り合いにその手のまとめに詳しい人いるから融通するけど」
「えっと、お言葉に甘えさせていただいてよろしいですか?」
「本人がOK出すかはわからないけど、話を通すくらいなら。ちょっと待っててね」
一旦お話を終えて、長井君にコールを繋げる。
なかなか繋がらないのは、コール相手が私と知って厄介人だと勘づいたな?
粘り強くコールをかけてようやく出たと思ったら、どうもAWO内でイベントの真っ最中とのこと。
息子のカネミツ君なら空いてるからと丸投げされ、そっちには許可もらった。
ついでに折り返しコールしてもらうことにする。
「許可が降りました。折り返す電話させるのでこちらの支部のアドレスを教えてもらえます?」
「でしたら◯◯:|||392978900789456172で」
「了解、送っといた。後で電話来ると思うから対応して。あ、情報は彼のところに丸投げすれば勝手にまとめてくれるから。その代わりネットに流れるけど大丈夫?」
「もちろん構いませんが、ある程度まとまってからで良いですか?」
「それはもちろん、細かいところは彼とよく相談して決めなさい。じゃあ私はこれで」
「何から何までありがとうございます」
「ん。じゃあ卵の変化があったら伝えるねー」
片手を上げて、私はエッグダンジョンを後にした。
さて、まだ日が高いな。近場のダンジョン情報は……あそこにしよう。
思いついたら吉日。
私は欽治さんの所有地にあるダンジョンへアポ無しアタックを仕掛けた。
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