第13話 ダンジョン需要①

「いやぁ、終わった終わった」

「お疲れ様、お爺ちゃん!」

「美咲もお疲れ様。イエイ」

「イエイ」


 孫とハイタッチしてると、先ほど分かれ道でお別れした四人組がこっちにやってきた。


「やぁ、先ほどの。奇遇ですね」

「奇遇って。あんたらあれからどこいってたんだ?」

「どこ、とは?」


 四人組はこちらをまるで迷子の子供のように捜索していたような態度である。

 ただ別行動しただけなのに意味がわからない。


「あなた達ですか! 行方不明者とは」

「行方不明?」


 四人組の他に警察の制服を纏う女性が怒鳴り込んで孫が反応した。


「どういう事だろうね?」

「さぁ?」


 私は孫と顔を突き合わせて首を捻った。

 

 彼女、警察官の大判さんはY字路で別れた四人組と休憩所で遭遇し、そこで私たちが別の方向へ行ったと聞きつけて現場に駆けつけたという。

 なぜそんなことを行ったかといえば、事前調査では奥の通路であるボス部屋まで一本道で脇道など存在しないと言うことだった。

 だというのにボスが強すぎる事から、ここの階層はしばらく素材取りの場になるだろうと決めていたそうだ。


 それを私達がクリアしてしまった事から中にいた人が全員表に出されてしまったという。

 それを私達の所為にされてもね。

 自分たちの予定通りにならないからって責められる言われはない。


「それはご愁傷様でした。しかしね、こちらとしたって隠し通路がどうとか言われてもよくわからないよ。ねぇ?」

「うん。私達は普通に分かれ道で別れただけです。自分たちが見つけられなかったことを棚に上げて私達を責めるのは筋違いな気がします」

「くっ、正論だわ」

「いや、こっちとしては無事ならそれでいいんだ。途中でここは一本道だって言われたから俺達も焦っちゃってさ。それにしてもよくあんな化け物倒せたな。物理攻撃通用しなかったろ? 俺らも戦ったが、これは無理だって途中で撤退したんだ。なぁ?」


 こくこくと頷くほか三名。

 となると、事実確認を焦ってるのは警察の方か。


「そういえば、大判さん。同じ管轄の今川巡査をご存知ですか?」

「今川先輩ですか? ってまさか貴方は!」

「今川さんってさっきの人?」

「うん。パターゴルフ中に仲良くなってね。一緒にどうですって誘ってダンジョンに潜った。その程度の仲さ」

「では、貴方が先輩の言っていた先駆者の!」

「私だけではないけどね」


 四人組が先駆者? という顔で私を見た。

 何故か孫がドヤ顔をしている。

 あんまりそんなポーズ取ってるとスキルが生えるよ?

 私なんて身に覚えのないスキルがわんさか生えて困ってるんだから。


 私が先駆者である事、分かれ道で出会したモンスターについての情報の提供をする。四人組が食いついたのは武器グレードの上昇アイテム。

 情報では目にしたものの、実物を見たことがないようだったので査定に回すのを見せることにした。

 もちろんあげない。欲しければ自分で探しなさい。

 私はそこまでお人好しではないからね。


「すげ、武器グレードを上げたらあの硬いモンスターまでバターを切るようにいけるのかよ!」

「そうよ、発見したのはお爺ちゃんだから私は全然凄くないけどね」

「爺さん、ただモンじゃねーとは思ってたけど……」


 ハッハッハ。思ってもないことを口にしなくたっていいよ?

 君たちの視線は孫に釘付けだったじゃないの。


「さて、大判巡査にはこちらを。新規ドロップ品と新いモンスターの概要、そしてドロップ品同士の変わった使い方。そこから先は君たちの仕事だよ。情報は出すけど私の名前は出さないようにね?」

「こ、こんなにたくさんの情報を頂けたのにさらに匿名にするのですか?」

「私は君たちよりも先に死ぬ。これからの時代を担う君たちの活躍の機会を奪う真似はしたくないんだよ」

「笹井さん……わかりました。今はこの情報をありがたく頂戴します。いつかこれに負けないくらいの情報で埋めてみせますから!」

「期待してるよ、大判さん。あと、あまりを焦りすぎないように。一歩づつ、たまには立ち止まって足元を見てみなさい。案外そこに打開できる一手が転がってるモンだ。若い力を私に見せてください」

「はい!」


 見事な敬礼だ。さすが本職だね。付け焼き刃の長井くんのとは大きく異なる。


「さて、君たちはストリーマーだったね」

「俺たちを知ってるんですか?」

「いや、ついさっき知ったんだ。そしてこっちの道に入った理由はこれかな?」


 人差し指と親指で輪っかを作る。

 要は金か、と促したら案の定だった。

 ならば、とコネクションを総動員して宣伝に回る。

 要は彼らを広告塔に仕立て上げるつもりだ。


 若い発信力は力だ。

 それなりに数字を持っている。

 問題はまだダンジョンそのものに魅力がない点か。

 孫を広告塔に据えることも考えたが、孫はまだ高校生だ。

 彼ら四人組ほどの自由はない。

 ならば、という事でスポンサーをつけた。


 脳内チップでコールを鳴らす。

 受け取った相手は心底嫌そうな声で応じてくれた。


「いやぁ、お久しぶりです。寺井さん。そろそろ若い人材が欲しい頃じゃないですか?」

『若い力なら足りてますよ。なんですか、藪から棒に。あなたはいつも突然だ』

「実はですね、ダンジョンで将来有望そうな若者、要はストリーマーに出逢いまして。後押ししたいからスポンサーになってくれないかなって」

『武器を融通しろと? こっちの都合も考えずにいきなりですね。そもそもどんな相手かも分からず審査する前に金を出せとは随分と勝手だ。そう言うところですよ?』

「そうだね、彼らの価値を並べるならレベル10以内で光苔とそれの上位互換である水晶を採取可能だ」

『ほう……つまり優先的にその素材が我が社に入ると?』

「そりゃスポンサーになってくれたらの話です。あーあ、レベルを上げるのに夢中になってチュートリアルをさっさと終えた頭打ちの探索者ばかり抱えてそうな寺井さんに朗報だと思ったんだけどなー。どうしても嫌だと言うなら流石にこちらも無理にとは言いません、この話はなかったと言うことで……」

『分かった、わかりました! 流石にこの場では判断できませんので、後日面会ということで良いですか?』

「オッケーです。じゃ、そう言うことで」


 コールを切り、四人組に許可取れたよ、とジェスチャーを送る。


「本当にスポンサーになってくれるのか? 言っとくが俺たちまだ言うほど数字取れてねーぞ?」

「数字上はそうでしょうけど、私は君たちが思ってる以上に価値を見出している。さっき水晶を見せたよね?」

「え? ああ」


 コールを切ったら再びダンジョンへ。

 そして答え合わせにするようにとある場所に足を運ぶ。

 モンスターはスライムのみ。

 だがそこかしこに光苔やら水晶の採掘ポイントがそこかしこにある。


 これは私の見立てだが、チュートリアル状態の探索者は、自分から仕掛けない限りモンスターに攻撃されないと言う憶測。

 実際に孫は自分から仕掛けてたが、私が釣ったモンスターに攻撃されることは一度もなかった。


 そして見つけにくいと言われる光苔。

 この手の採掘系は一度発見したか、アイテムを手にしたことがある人が知覚することでようやく共有されるものだと思っている。


「ベイクさん、ここの壁にある採掘ポイントはわかりますか?」

「見える。なんだこりゃ、こんなにピカピカ存在感強めにあったなんて! さっきまでは全然見えなかったぞ?」

「ですが先に採掘するのは光苔の方からお願いします」

「なんか理由がありそうだな。って硬ってぇ! これ無理じゃね?」

「だから無理って言ったじゃないですか。光苔、それで武器グレードを上げないと採掘不可能です」

「爺さん、それを先に言えって」


 言ったんだけどなぁ、聞かなかったのは誰かな?

 こうして私は四人組のストリーマー『おやき』の商品価値を見出し、スポンサーをつけてダンジョン探索者の第一人者として売り出した。


 ダンジョン内って色々武器を持ち込めるけど、グレードアップしない限りほぼ粗悪品扱いになるからね。

 武器を売り捌こうってお店が一番欲するのはグレードアップ素材に他ならない。その場でグレードアップ出来るのは最初のうちだけ。


 自分でやってみて気づいたが、これグレードVから先は失敗がある。

 最初こそ喜び勇んでグレードをあげるが、途中でこれは沼だと気づく。

 失敗すると武器壊れるしね。もちろんそれまでの成功もパーだ。


 だが、定期的に素材を入手できるのであれば?

 彼らの存在は手放せなくなるはずだ。


 ダンジョン探索者で上を目指したい、と言うのであれば誘わなかったが彼らはお金が欲しいだけ。

 そして需要に対して供給を満たす存在価値を見出せばダンジョンももっと若者達で賑わうだろう。

 これぞまさにWin-Winの関係ってやつだね。


 警察だって探索者が増えない限り尊い犠牲が増えるばかりだ。

 それは見過ごせないもんね。

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