第12話 孫と一緒にダンジョン③

 周囲を警戒しつつ、目についた珍しいアイテムの収集を図る。

 光苔の採取と同様に、うっすらとぼやけて光る場所。

 そこをナイフの先端を充てて、パターを短く持ってトンカチのようにトントンすると、


「取れた」


「さっきから何してるの?」


「うん、さっきから存在感強めに訴えかけてきたんだ。ここに何かあるよって。でも普通に掴むだけでは取れなかったから」


「強化した武器を使用した?」


「案の定と言ったところか。見て、アイテム情報が出た」


 孫には武器強化のコツを教えていた。

 単純にロックスライムが硬過ぎて刃こぼれしてしまうという懸念と、あまりに刃こぼれすると武器の属性を失いかねない懸念があったためだ。

 そもそも情報はすでに出てるので、偶然手に入れた体だが。



┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 アイテム/水晶

 武器グレード+3

 ※グレードⅠ以上の装備でのみ採掘可能

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛



「わ、強化素材だ。よく見つけたね」


「何かの条件を満たしたのだろうね。強化済みだった武器の方のフレーバーが引っかかったか。あるいは……」


「早速強化する?」


「そうした方がよさそうだ。ロックスライムは強敵だからね。警察だって苦戦してるかもよ?」


「そうだよね、まだまだ謎が多い場所だもん。ではお爺ちゃんは引き続き採取の方をよろしくお願いします!」


「うん、美咲はロックスライム攻略の糸口でも掴んでくれる?」


「了解であります!」



 ビシッと敬礼して、スライム捜索に走り回る。

 孫のレベルはあれから9へと上がっていた。


 ロックスライムの討伐はあれからも進んでいるが、駆け寄って羽交締めにして、傾けて中身をこぼすのは非常に骨が折れた。

 そもそもロックスライムの外殻は非常に高く、ビリヤードの玉突き事故でようやくダメージが与えられるほど。


 美咲の決定的なダメージソースは出ず、トドメを私がもらい続けている。

 それを心苦しく思ってるんだろうね、私の足を引っ張ってるって思っちゃうようだ。

 こっちは一緒にいられるだけで十分に気晴らしに慣れてるというのにね。


 さぁて私の方も孫に負けない成果を出さなきゃ。

 お爺ちゃんは凄いんだぞ、そう言わせられるような成果をね。



 哨戒に出ていた孫が、息を切らせて駆けてくる。

 何やら見つけてきたようだ。

 いつもなら「お爺ちゃん、大変大変」と大声で呼ぶのだが、それをしないと言うことはそれができないと判断したからだろう。

 うちの孫は非常に賢いのだ。


「おかえり。何か見つけた?」


 こくこくと頷くだけ。深呼吸を促せて、水筒から水を注いだカップを手渡した。それを無言で受け取って、一息つく。


「向こうのほうで、光苔がたくさんある場所を見つけたの」


 弾んだ声でその場所を教えてくれた。

 でも問題があるという。


「その場所にね、いろんな色のロックスライムがいて。きっと採掘したら襲ってくるよね? スルーしたらいいのかなって。どうする、お爺ちゃん」


「そうだねぇ、本来ならスルーが安定だ」


「そうだよね……」


 せっかく穴場を見つけたのに、そう項垂れる孫の肩に手を乗せて声をかける。


「でも美咲は諦めたくないと考えているよね? なら挑戦してみてもいいと思うよ。別に一度に相手にしなくたって、一匹づつ釣ればいい。モンスターだって感情があるんだ。いろいろ試してみて、できる事を増やしていこうよ」


「うん!」

 

「よし、元気のいい返事が出たところで強化素材がこれだけ増えた。私の方で武器のグレードをVにしてみたよ。美咲の分もとってある。まずはこれでどこまでロックスライムに通用するかのチェックだ」


「ⅡやⅢじゃダメなの?」


「ダメではないよ。ただ、あれだけ固いんだ。そしておあつらえ向きに強化素材がある。これはきっとここで強化して相手しろって親切設計に違いない」


「そっか。今はお爺ちゃんを信じる!」


「では私は手頃なロックスライムを釣ってこよう」


「どうするの?」


「先ほど強化したナイフで即興で作ったこれを使う」


「丸く削った、石?」


「うん。これをボールに見立ててパターで弾くのさ。こちらからは小さい音で、一匹にしか当たらない。当たった方は何事だって思うよね?」


「うん」


「それを何度もぶつけて、ちょっとイライラさせる。そうして引っ張ってこれたらなって」


「それ、絶対うまくいくよ!」


「そうだといいんだけどね」


 孫からの強い期待を受けて、欽治さんに勝ち越しているパターの腕前で勝負を仕掛ける。

 レベルが13となった今、ダンジョン内の視界は非常にクリアになっている。

 手前のロックスライムまではなだらかな下り坂を7メートル下った先。

 ボールを地面に固定して、第一打。


 程よくクリティカルが出て、軽くスピンがかかる。

 コロコロと転がった先で、スピンによる軌道修正。

 ロックスライムにコツンとうまいことぶつかった。

 その個体が、ゴトンと動き出す。

 夜目はそこまで利かないのか。はたまた索敵範囲がそこまで広くないのか、こちらを探すように外殻が蠢いた。


 よし、あと数発打ってこっちに興味を持たせるか。

 石なら壁から無限に削り出せる。

 そう、このグレードVのナイフならね。


 ロックスライムの切り札となりうるのはグレードVから。

 強い確信を抱けたのは採掘技能中の出来事からだった。



「連れてきたよー」


「凄い! 上手くいったんだ?」


「バッチリ。あとは美咲が頑張れる? 私はいざという時にボール作りをしてるよ」


「大丈夫。なんか今のあたしは負ける気がしないんだよね!」


 いつになく強気な孫。

 うーん? どうしたんだろうと思ってハッとする。


 そういえばさっき渡した水筒の中身、後で飲もうと思ってスライムドリンクで満たしてたんだった。単純にアイテムだと嵩張るからって理由で。

 喉の渇き以上に、戦意が高揚する効果でもあるのかな?

 メモに概要を軽く書き足しておく。


「お爺ちゃん! 勝ったよ!」


「お見事。武器を強化しておいて良かったでしょ?」


「うん、スパって切れた!」


「やはりこのダンジョンの攻略法は武器のグレードアップだったんだ」


「それに気づけるお爺ちゃんも凄いからね?」


「偶然だよ」


「普通はそんな偶然起きずに終わるんだよ?」


 そうかなぁ? 欽治さんは目ざとく何か見つけてマウント取ってくるから私も負けじと周囲に目を配る癖がついたものだ。


 だから私が凄いというよりは、あの人と一緒に行動してるとみんな凄くなるって感じてる。

 もちろん勝ち逃げされたくないからって浅ましい気持ちが強い。

 それを孫の前ではおくびに出さず、だったらいいねと続いてロックスライムの色違いを乱獲した。


 色が違えば攻撃手段も変わる。

 でも外殻の硬さはそれほど変わらないので、スライムポーションを飲みながらの攻略が可能だ。

 これの強みは飲むと肉体の属性が変化することにある。


 相手が火の属性攻撃を仕掛けてきた時、水の属性だとダメージを無効化することができるのだ。

 一緒にスライムコアを食べるとお腹がタプタプせずに程よい空腹効果を保たせられる。


 まるで最初から二つで一つのアイテムであるかのように。

 ゴールデンロックスライムは黄金水を落とした。

 通常のゴールドボールと違い、金塊ではない。

 だがその効果は劇的で、なんと状態異常の回復を見込める奇跡の品だった。


 それ以外もそれぞれ状態異常の回復効果を持っていた。

 青は火傷回復。

 火は猛毒回復。

 緑は混乱回復。

 黒は石化回復。

 黄が全ての状態異常回復だ。


 これは世間が荒れるぞぉ。

 だってさっき味見しただけで肉体疲労がスポンと抜けたからね。

 世の老人が欲してやまない精力剤となり得るのだ。


 いや、こんなご時世だからこそこれを求めていろんな企業が動きそうだ。

 もちろん今の私ならこれを秘匿するって手もあるけど。


 秘匿してたって仕方ないので匿名で全部出した。

 案の定世間は連日そのニュースでひっくり返っている。


 この日を境に世間がダンジョンに注目を向けたのはいうなでもないよね。

 ボスのジェネラルはただ大きいだけだから弄せずに倒せたよ。

 黄色だったら良かったけど、黒い奴だから特に喜び勇むこともなく普通に処理したよね?


 ロックスライムを乱獲したおかげでレベルも15まで上がってれば、そりゃね。

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