蜘蛛の巣

若葉ノ煙

30歳 写真展

弱い雨が降っている。

花粉症の人々は少し楽だろう

私は天気などで気分が簡単に左右されるが、理由はそれだけではない。

友人と待ち合わせのコンビニ駐車場、友人は遅刻している。

友人とのただの待ち合わせの筈が鼓動が高鳴るのは私の病気だ。気持ちを落ち着かせるために車内で一服しているとバックミラーにベルファイアが映る。

「遅刻やで」浮ついた声で茶化す。

金のアクセサリーを武装したオリジナリティー溢れる友人は一言でお洒落だ。

怪しげな紙袋を下げた彼は職質をされてもおかしくない装いで悪びれもしない。

2人は流行っていない温泉街を歩き硫黄の立ち込める路地裏に消えて行く。

古びたスナックのような扉を開けた場所が目的地となる。壁一面に飾られた写真、妖艶な写真の向かい側には私が被写体となった写真もある。

中に待ち受けた写真家の友人と挨拶を交わすが覚えていない。何人かの写真家もいた。歳が近いが、仲良くなる言葉が見つからない。

溜まり場の小洒落た喫茶店に移動するとまた仲間がいた。完全に言葉を失った私は黙ったまま連れの金のアクセサリーを身に纏う饒舌な友人のトークに圧倒される。

心に鎖が絡み付いたように重たい時間を乗り切り疲弊した私は抜け殻になっていた。

覚えているのは友人の金のネックレスは数千円で拵えたハイセンスな一品である事、そして皆が遠い存在に覚えた事、そして私が作った楽曲がその場で披露されず安堵した事だ。

私は誇張して言えば音楽家だ。自分の感覚のみを信じたオナニーミュージックを作成している。写真家の友人は評価してくれたが私には本心と思えない。

心に釘が刺さるような想いになる度に私は墜落していく。そして麻酔薬の様なポジティブを求めて努力してしまう。なにもかも必要な要素が欠落した私は、あまりにも遠い道のりを歩もうとしているようだ。

そして今日も夢を見てベッドに骨を埋める。

金のアクセサリーの友人が持っていた紙袋の中には写真家の友人のために書いた絵が入っていたのを強く思い出した。決っして最高に上手いわけではない、ただ真っ直ぐに刺さった。

この差は天と地だ。乾燥した植物を燃やした程度では幸福になれない私を解剖し、紐解いて行く事に決めたのだった。

このまとわりつく様な感覚はおそらく小学生からの事だ。


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蜘蛛の巣 若葉ノ煙 @SAIMA-WAKABA

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