第16話

ある日、ヴィントの研究室を訪れると先客がいた。

旅人の服装をした20歳くらいの男で、やたら愛想がいい不思議な人物だった。



「やあウィル、待っていたよ。

君に紹介したい人がいてね。彼は行商人のラオニッシャー・ヘンドラー。

各地を回っているから、なかなか王都に戻って来なくてね。」


「お初にお目にかかります。

私はウィルバート・フェルゼン。フェルゼン侯爵家当主で、騎士団の魔術部隊で中隊長を勤めています。」



「こちらこそお初にお目にかかります。

私はラオニッシャー・ヘンドラー。ラオって呼んでください。

一応ヘンドラー商会の息子ですが、自由気ままに旅をしながら各地を回っています。

欲しいものがあれば何でも手に入れてみせますよ。」


「ウィルは先日成人したばかりなのに、貴族家当主と騎士団中隊長を兼任している、とても将来有望な人物だ。」


「はぁ、羨ましいなぁ。

この容姿で、それ程までに優秀とは。天は1人の人間に二物も三物も与えるんだなぁ。」


ラオは感心しながらそう言った。


「いえ、私など大したことは・・・」

「ウィルの魅力はそういうところだけじゃないんだけどなー」


お互いの自己紹介が終わると、ラオが国内各地や国外で見つけた、一見すると何に使うか分からないようなものをテーブルに並べた。




「これは?」


見たことのない、青っぽい虹を中に閉じ込めたような石を見つけた。


「これ綺麗でしょー?竜の涙って言われてる宝石で、実際に竜の涙なのかは分からないけど。

これとこれがペアなの。

まだ国内ではほとんど出回ってないと思うよ。」


これ、祖父母へのプレゼントにいいんじゃないか?

祖母にはネックレスにして、祖父はタイピンにしたら良さそうだ。



「これ、欲しい。」

「毎度ありー」


私は他にも、真っ黒な吸水力の高い厚手のハンカチや、筋肉質なピンクの羊が上半身だけマッチョポーズを取って、下半身は膝を折って座っているペーパーウエイトを買った。


「ウィル、マジか。なんか・・・うん・・・良いと思う。」

ヴィントには何とも言えない目で見られたが、良い買い物ができたと思う。



黒いハンカチはもっと在庫が無いか聞くと、今は無いけど、欲しいならいくらでも仕入れると言われたので、とりあえず150枚と言うと驚かれた。

たぶん大丈夫とのこと。


丈夫そうだし、汚れも目立ちにくい。防具や靴や汚れたものを拭くのに良さそうだ。

私の隊のみんなにも買ってあげようと思った。



ペーパーウエイトも、他に同じようなのが無いか聞いたら、今日はこれしか持ってきてないが、他の種類を商会に卸したから商会に行けばあると言われた。


次の休みか、いや明日行ってみるか。売り切れたら困る。


「・・・ウィル、売り切れたら困るとか思ってそうだけど、たぶん売れてないから安心しろ。」


そう言ってヴィントに肩を叩かれた。



楽しかった。


普段、街へ買い物に行くことなどほとんど無いが、これからは街に買い物へ行ってみたいと思った。



その日はそのまま3人で飲みに行った。



「えー!?

あの水が出る筒の道具、アイデアはウィルなの?

あれ凄い良いよね。旅してると水って死活問題だからホント助かる。」



「ラオ、で今回はどこに行ってたんだ?」

「今回は結構色々回ったねー

トルーキエでしょ。それからインディール、パリスタ、ラジリエン、あの石はストーリアって国で、今回初めて行ってみたんだ。」


「へぇ、ストーリアってのはどこにあるのかも分からないな。」

「インディールからもっとずっと南西に行った方だよ。島国でね、船で渡って行ったんだ。」

「船?」


「そう。ここエトワーレにいたら、船なんてなかなか乗らないし見かけないよね。」

「南に一部海に面した地域があったと思うけど、まぁ普通はそんなところに行かないからな。」

「海・・・。」


「海は塩が混ざった水で満たされた大きな湖みたいなものだ。」

「では塩はその海の水から作られているのか。」


「岩塩とかもあるから全部がそうじゃないけど、海の水から作られることは多いね。」

「それは便利だな。きっと海に近い街は潤っているのだろう。」


「うーん、それはどうかな。

確かに活気がある街や村が多いね。ただ、海は海の魔獣がいたりするから、魔獣被害も多くて、人で溢れかえっているような印象はないかな。」

「へぇ、海の魔獣か。見てみたいな。」

「そうだな。」


海、船、私は色々知らないことが多いんだな。


ヴィントがする魔術の道具の話も面白いが、ラオのする各地の話は、村と戦場と王都しか知らない私にとって、とても興味深かった。



その日は、また会おうと言って解散した。

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