第14話

祖父と合流後、祖父の顔馴染みの、令嬢を連れていない貴族に紹介してもらい、ハーフェン侯爵家当主と奥様、アインツ伯爵家当主、ゼルトザーム伯爵とその令息に挨拶させてもらった。


ゼルトザーム伯爵令息は、私より2歳上で魔術の研究所に勤めているとかで魔術の話で盛り上がった。


「魔術の研究所なんてあるんですね。」

「そうなんだよ。私は魔術が好きだけど、それほど魔力が多いわけではないし体力もないから騎士団なんかに勤めることは難しい。

フェルゼン侯爵はその若さで中隊長なんて凄いな。」


「いえ、私は運が良かったのです。周りにも恵まれて。

あ、そうだ私のことはぜひウィルと呼び捨てにしてください。」

「じゃあ私のこともヴィントと呼び捨てで構わない。」


「私も色々な魔術を試してみるのが好きなんです。」

「それはいいね、ウィルは魔力が多いから色々試すことができて羨ましいよ。

どんな魔術が得意なの?」


「私は結構支援や重ねがけをよく使う。」

「それかなり技術高いよね?魔力操作はどうやって練習してるの?」


「攻撃のような一気に放出する方法でななく、薄く広げていく感じの魔術を普段の生活中にも常に発動させていて、それを続けていると、無意識でも魔術が使えるようになったり魔力操作が上手くなる気がする。」

「なるほどね。それはちょっとデータ取って調べてみたいね。」


「私でよければ協力するよ。」

「それは助かる。今度詳しく話すよ。ぜひ飲みに行こう。」

「もちろん。」


今度飲みに行く約束もした。




今日は他の貴族家に挨拶もできたし、話の合う知り合いもできたし、実りのある夜会だった。


もうしばらくしたらお開きになるし、何事もなくて良かった。



そんなことを考えていると、突然1人の令嬢がぶつかってきた。

そして祖父は押し除けられ、令嬢がわらわらと寄ってきた。



「あなた、フェルゼン侯爵様にぶつかったふりをして身体に触れるなど、娼婦のようね。」

「フェルゼン侯爵様に触れていいのは、リューグナー公爵家令嬢である私だけよ。」

「あなたのように品がない方がフェルゼン侯爵様の隣に立てるわけがないわ。」

「あなたみたいな貧相な身体でフェルゼン侯爵様を魅了せるわけなのよ。」



これは喜劇か何かだろうか?


令嬢達の言い争いが始まり、飲み物をこぼしたり、扇子を取り出して振り回す令嬢まで出てきた。


いよいよ喧嘩が激しくなり、怪我でもすると大変なので、仕方なく私が仲裁に入る。


「落ち着いてくださ・・・」

そう言い終わる前に、令嬢が振り回した扇子によって、私の右掌がサッと切れ、ジャケットについていたオーガンジーの花も一つハラリと床に落ちた。




「・・・もう無理だ。」


団長にも許可をもらってる。



私は冷気を出して彼女達に冷たい視線を送ると、令嬢たちは真っ青な顔をしてカタカタ震えながら距離を取った。


私は風の魔術でヒラリとオーガンジーの花を拾い、その場を立ち去った。





近くにいたウェイターに、1番強いお酒を聞いて、レモンの輪切りと氷が入ったウォッカのグラスを受け取ると、一気に煽ってグラスをトレーに戻した。



そして、先ほど令嬢に押し除けられた祖父と、近くにいた祖母を連れて、コーエン卿に深く礼をして馬車へ向かい、そのまま邸に帰った。




馬車の中では、祖母が私の手にハンカチを巻いて心配してくれたが、その後は邸に着くまで、誰も言葉を発しなかった。


途中までは良かったのにな。

私が何をしたと言うんだ・・・。



翌日の早朝、コーエン卿がわざわざ屋敷まで謝罪に来てくれた。


出勤するまで時間が無いというと、本部へ馬車で送ってくれることに。

止めることができなかったこと、怪我をさせてしまったことについて、申し訳ないと。

卿のせいではないので気にしないでくれと言うと、今後夜会に行く時は私がウィルを守ると言って聞かなかった。



そして昨夜の夜会での出来事はすぐに広まって、団長が来たり、陛下に呼び出されたりした。


団長には、先に帰ってすまんと謝られ、

陛下には、やっぱり私がこっそり参加するべきだったと言われた。



夜会で喧嘩をした令嬢達は、全員しばらく自宅謹慎になるそうだ。


例の扇子を振り回した令嬢や、騒動の渦中にいた令嬢の親からは、謝罪に伺いたいと何度か連絡をもらったが、全て断った。


祖父から、これ以上令嬢に囲まれないためにも、特定の彼女か婚約者を作ったらどうかと提案されたが、とてもそんな気にはなれなかったので断った。




連日のように釣書が届くようだが、私に届く前に祖父が断りの連絡をしてくれている。

だから私にどれだけの釣書が届いているのか、把握していなかったりする。


祖父に聞いてみたことがあるが、「ウィルは気にしなくていい。ウィルが自分で選んだ女性と添い遂げてくれればいい。」と言ってくれた。


侯爵家に入ることになった時に、貴族になるのならば政略結婚もあり得るのではないかと思っていたが、祖父も祖母も、私が希望しないことはしたくないと言ってくれた。



陛下にも、私宛ての釣書や茶会への参加依頼が届いているようだが、陛下が握り潰しているらしい。

それはコーエン卿が、飲みに行った時にポロッと漏らした言葉だったが、詳しくは教えてくれなかったので本当なのか半分冗談なのか分からない。


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