第10話

「君たち、令嬢が人目のあるところで男性の身体にそのようにベタベタと触れるとは端ないねぇ。」


なんとこの窮地を救ってくれたのは我らが王。国王陛下だった。




令嬢達は顔を赤くしたり青くしたりしながら、サーっと潮が引くように居なくなった。


「ありがとうございます。助かりました。」

私は深く頭を下げた。



「君も大変だね。あぁ、私は国王のダイター。知ってるかな?」


「もちろん存じ上げております。私はウィルバート・フェルゼンと申します。陛下におかれましては・・・」

「あぁ、いいのいいの堅苦しい挨拶は無しでね。私も君のことは知ってるよ。

15歳にして侯爵家当主で、明日には史上最年少で騎士団中隊長。一度話してみたかったんだ。」


挨拶を途中で遮られ、気さくな感じで話しかけられた。



「陛下に覚えていただけるとは、光栄でございます。」

「そんな硬くならなくていいのに。

それより、彼女達追い払っちゃったけど良かった?」


「はい。全く問題ないです!

がんじがらめに拘束されて色々触られるし香水はキツイし抜け出せず困っていました。

本当に辛かった・・・」

思わず本音がポロリとこぼれてしまった。



「あはははは、君は面白いね。

まぁ、君を射止めるために必死なことは分かるけど、さすがにあれは目に余るね。

それに・・・」

陛下は私に同情してくれていた。



「え?」

「いや、今から時間あるかい?」

「はい。」

「ちょっと付いてきて。」

「はい。」





陛下の誘いを断れるわけもなく、私は陛下の後に続くと、護衛の近衛騎士に左右を挟まれて、会場を後にして廊下を歩いた。

しばらく歩いてドアの前まで来ると、ドアの入り口に立っていた近衛騎士がドアを開けて私も入った。


陛下の執務室だろうか。

正面には重厚な作りの机があり、壁には本棚が並んでいた。


応接セットに案内されると、陛下が座った後で一礼して私もソファーに座った。



「君は本当にウェスリーに似ている。その中指の指輪、ウェスリーもいつも付けていたよ。」

「父のことをご存知なんですか?」


「うん。ウェスリーとは小さい頃から仲が良くてね。気兼ねなく話せる数少ない私の友達だった。」

「そうだったんですか。」


当たり前だがそんな話は初耳で、驚きの感情が大きい。



「ウェスリーとリリーの駆け落ちのシナリオを考えたのは私だ。

あの頃は今よりも派閥争いが酷くてね。

もう最後は、2人をどうにか引き離してリリーを無理やり遠い貴族の下に嫁がせて監禁するとか、いっそ暗殺するかとか、そんな話も出ていたんだ。

想い合う2人をどうにか一緒にさせてあげたかったんだけど、当時王太子の私では力が及ばなかった。

だから、駆け落ちを勧めたんだ。」

「・・・。」


「追っ手が彼らを害することがないように、色々隠蔽したりしたんだけどね。

死亡届の捏造とか、偽の野盗の手配とか。」

「そうだったのですか。知りませんでした。」



「でも、国境に近い小さな村に行かせたことで、戦争の犠牲になってしまった。

私が何とかこちらに引き戻せていたら、また違った未来があったのかもしれない。」


陛下は懐かしむように、それでいて悲しそうに微笑んだ。



「そんなことはありません。私の記憶にある両親はいつも笑っていました。

陛下に手配いただいて2人で生きていくことができて、幸せだったと思います。」

私は陛下にはっきりとそう言った。



「そうか。そう言ってもらえると、私も救われる気がするよ。」

「はい。」

しんみりとしてしまった。



「うん。

それとは別にね、君の目の色。見せてもらってもいいかい?

一応国王だからね。報告は上がってるんだけどね。見てみたくてね。」

「はい。」


私は目の色を変える魔術を解いた。



「本当に赤なんだね。

紫だとウェスリーの若い頃にそっくりだけど、目の色が違うだけで大分印象が変わるね。」

「そうかもしれません。」



「君と話しているとウェスリーと話しているようで、懐かしくて色々話したくなってしまう。

またこうしてここに来て話を聞いてくれるかい?」


「はい。畏まりました。

恐れ多いことですが、陛下が私とお話をされたいと申されることがあったなら、すぐにでも飛んでまいります。」



「ウィルバート君、硬いねー

君はウェスリーの息子なんだし、私の息子みたいなものだ。2人の時はもっと砕けて喋ってもらっていいんだよ。

私が許可する。いや、そうしてくれ。」


「いえ・・・それは、、陛下のお願いであっても難しいかと・・・」


無理だろ。

そんなの無理だろ・・・。

陛下相手に砕けて喋るなんて、無茶振りが過ぎる。



陛下はジーッと私をみている。

「・・・・。」


ジーッとジーッと。


「・・・・。」

「わ、分かった。」


緊張で喉がカラカラだ。


いきなり不敬とか言われて近衛が飛び込んできて捕縛されるなんてことないよな?



「うん。それでいい。」

そう言うと陛下はニコニコと嬉しそうにしていた。



「さて、そろそろ会場へ戻るかい?

また令嬢たちに囲まれるかもしれないけど。」


「正直憂鬱です。ずっと冷気を出して誰も近づかないようにしたい・・・。」


私はまたあの会場に戻るのかと思うと、ガックリと項垂れた。



「じゃあ私が前侯爵夫妻の元まで付き添ってあげるよ。」

「本当ですか?いいんですか?」


「うんいいよ。じゃあ行こうか。」


私は陛下の好意に甘えて、祖父母の元へ陛下に送ってもらった。




何とか終わった初めての夜会。宰相と陛下とお話しできたことだけは良かった。



祖父母は、この社交シーズンが終わり次第、領地に発つそうだ。

あと2ヶ月ほど。その間は新しい侯爵家当主のお披露目という名の夜会に一緒に行ってくれるそうだ。


当主が変わったばかりなので、お披露目というか挨拶回りはしっかり行わなければならないと言われて、理解はしたが憂鬱な気持ちは拭えなかった。

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