第6話 転落
「本当に一千万円振り込まれてる……」
通帳に刻まれた初めてみる0の数に揚羽は絶句していた。こんなお金、人生で拝めるのは最後かもしれない……。李音様、こんな見ず知らずの他人を信じていただきありがとうございます。勝手に私の夢の中に出てきたのは癪だったが彼が悪いわけではないし、もう一度心の中でちゃんと感謝の気持ちを述べてみた。
しかし、悪いことをしているわけではないがこんな大金を持っているとどうしても周りの人の視線や行動が気になってしまう。もしこの金額を現金で持ち歩いてたら心臓がいくつあっても足りないだろう。確かに拓也の言う通り振り込みにしてもらって正解だったのかもしれない。
ぽちぽちとATMを操作し無事に入金を終え、私は内心踊りながら軽い足取りで待ち合わせの公園へと向かった。これで拓也に恩返しが出来ると思うと自然と笑みが溢れてしまう。だって私が一番苦しかった時、暗闇から救ってくれたのは他でもない、彼なのだから。
そんな彼の力になってあげたいと思うことは悪いことじゃないと思う。もちろん、解決したのは全部李音様と名刺を残してくれたお母さんのおかげ、だから感謝の気持ちを忘れずに。
「ありがとうございます。私は幸せ者です」
胸元の前で指を組んで感謝を伝えた。李音様にはもう一度屋敷に戻ってからきちんと伝えるつもりだ。これは天国にいるお母さんに向けての感謝。ふとスマホの時計を見ると時刻は14時55分。今日はやることが色々多くて少し手間取ってしまったがなんとか時間通り間に合いそうだ。ふと噴水裏のベンチに目をやると愛しい恋人の姿が見えた。
「たく……」
その恋人に駆け寄り声をかけようとした瞬間、誰かが隣に座っていることに気づく。二人はまだ揚羽の存在に気づいていないようだった。
「なぁ、いいだろ……少しだけ」
拓也が甘えるように何かを懇願をする。
「ふふ、仕方がないひとね。もう我慢ができないのかしら?」
女はそんな拓也を見て楽しそうに小悪魔に笑って見せた。深緑色のストレート髪、キラキラと大きくぱっちりとした瞳に赤く濡れた唇。豊満なボディと白くて長い手足。揚羽が持ち合わせていない全ての要素を詰め込んだようなそれは素敵な女性がそこにいた。
女は持っていたハンドバックから無色透明の包み紙にくるまれたキャンディーを取り出すとそれを自身の口に放り込み、挑発するかのように「おいで」と呟いてみせた。
その言葉を待っていたかのように勢いよく拓也は女の唇を奪い、コロコロと女の口に含まれた飴を奪い取るかのように何度も何度もまるで恋人同士のような熱いキスを交わし始めた。
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