涙とハンカチ

婚約から1年。

私の足は完全に回復して、怪我をする前と同じように動けるようになった。

腕は完全には治っていない。まだ諦めてはいないが、真上に上げることはまだできない。

今私は、騎士団の団長補佐として、主に団員やその他のトレーニングの監修や戦闘技術を教える役割を担っている。


いつか要望があった、貴族の家督を継げない次男以下の令息が、剣を教えて欲しいという話は、団長も国王陛下も国の防衛に役立つからと快諾してくれた。

現在、2週に1回、騎士団以外の騎士を目指す者や、既に貴族お抱えの騎士や護衛として働いている者のための指導日を設けている。

そして、武闘大会の際に声をかけてくれた少年のような、未来の騎士を育てるため、子供を対象とした指導日も作った。


国の防衛に貢献したとかで、国防大臣という肩書きまで国王陛下に与えられてしまったが、私にできることは全力でやっていこうと思う。

この国にはカロリーヌがいる。こんな私を受け入れて優しくしてくれるこの国の発展に貢献できるのなら、こんなに嬉しいことはない。










まだ、これは夢なんじゃないかと思う。



全部自分の都合のいいように作られた夢で、俺はあの奇襲を受けた時から眠りに就いて、ずっと夢を見ているんじゃないだろうか?


本当はカロリーヌは助けに来ていなくて、俺は意識を失ったまま、死にゆくところなのではないだろうか?



そうだ。そもそも他国の戦地に王女様が来るなんておかしいだろ。あり得ないだろう。そんなの夢か幻だ。


戦い続けた俺に、最後に神様が見せてくれた幸せな夢なんじゃないだろうか。

傭兵として生きて来た俺が、こんなに豪華な金の刺繍が入った衣装を着ていること自体、夢としか考えられない。


俺の目の前には、純白のドレスに身を包んだカロリーヌがいて、教会の窓から差し込む光はキラキラと星が舞い降りているよう。



神父の言葉に続いて誓いの言葉を述べるも、全然頭には入ってこない。

フワフワと、夢の中で優しい光に包まれているよう。


膝をついてカロリーヌのベールに手を掛ける。

美しいカロリーヌが、少し頬を染めて俺を見ている。


そっと触れるだけのキスを交わし、カロリーヌと見つめあった。



「カロリーヌ、愛している。」

これが夢なら、どうか醒めないでほしい。

このまま死にゆく定めだとしても、どうか夢よ醒めないでくれ・・・



俺の目から一筋の涙が流れた。


「ベナット、抱っこして。」

無邪気にそう言う彼女を左腕の特等席に抱えて、俺は教会の中を歩いて行く。

彼女の温度も重さも感じる。

でも、これは夢なのでは?



俺は傭兵で、彼女は王女様なんだから。



「ベナット、愛してるわ。」

俺に微笑み掛けるカロリーヌはとても幸せそうで、切なくなった。



「私も愛しているよ。」

胸が苦しい。



「これは、やはり夢なのでは・・・?」

俺は思わず呟いていた。



教会の扉を出ると、皆んながいた。

炎舞も銀狼も。国王陛下や王妃様、王太子様ご夫妻に、団長、団員も皆が拍手を送って祝福の言葉を掛けてくれた。



「ベナット、夢じゃないわ。私達は結婚したのよ。」


彼女の言葉に、また涙が出て溢れた。

次々と溢れる涙を、カロリーヌがハンカチで拭ってくれる。



そのハンカチには、ハルバードを持ったクマが刺繍されている。




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最後まで読んでいただきありがとうございました。

また別の作品でお会いしましよう。

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第二王女ですが何処の馬の骨とも分からないクマのような傭兵に嫁入りしたい たけ てん @take_ten

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