叙爵と婚約
以前に少し話を聞いていたが、武闘大会の優勝により騎士爵に叙爵されることになっている。
午前中に、たくさんの貴族が集まって、叙爵、陞爵、叙勲、などが行われる。
そして、夜には貴族が正装して集まり、社交会が開かれるそうで、その時に俺とカロリーヌの婚約が発表される。
昼と夜には、別の服装をするらしい。
俺は、昼は騎士団の式典用の飾りが付いた服を着て、夜は魔女の婆さんが選んでくれた正装に身を包む。
作ったは良いが、国王陛下と会った時も着なかったし、もう着る機会がないかと思っていたが、やっと着る機会がきた。
午前の叙爵は、終始貴族達の好奇の目に晒されて居心地が悪かった・・・
しかし、俺もとうとう貴族になった。
俺にも家名が付くことになり、国王陛下と宰相と一緒に考えて、俺は『ベナット・シュトゥルム』になった。
疾風という意味らしい。
貴族は、国民が幸せに暮らせるように尽力しなければならない。
戦争がない国で、戦うことしかできない俺に何ができるか分からないけど、皆が幸せに暮らせるよう、努力を怠らないようにしよう。
正装に身を包んで、夜会の会場へ向かった。
襟元とかこんなにフリフリしたもので本当にいいのかと不安だったが、他の男性も同じように襟元がフリフリしていたので安心した。
会場に入ると、そこは別世界のようだった。
ただただ、美しい世界が広がって唖然とした。
そして、入場してくる貴族達の服装も、とても豪華で、俺だけとても場違いに見えた。
居心地の悪さを感じながら壁際に立っていると、最後に王家の入場が伝えられた。
会場の一段高い壇上に、国王陛下に続きカロリーヌの家族が入場してきた。
カロリーヌは今日も女神のように美しい。
そして、俺があげたネックレスを付けてくれていた。嬉しい。
カロリーヌをボーッと眺めていると、目が合ってにっこり微笑まれた。
その美しさに、胸が高鳴り顔が熱くなった。
「よお、ベナット。顔が赤いぞ、どうした?」
団長が背中をたたき、話しかけてきた。
「あ、いえ。団長も貴族だったんですね。」
「あぁ。一応な。」
「知り合いが居ないので居心地が悪くて、どうしたものかと困っていました。」
良かった。知り合いがいた。
「確かにな。俺も夜会は苦手だ。まぁ、お前はすぐに知り合いも増えるだろう。」
「そうでしょうか・・・」
「俺はお前達の婚約発表が終われば帰るけどな。」
「じゃあ私も・・・」
「お前はダメだ。婚約者を残して勝手に帰る気か?最後まで残れ。」
「そうですね。そうします。」
そうか。最後まで帰れないのか・・・
『この度、第二王女であるカロリーヌに婚約者ができた。ここでその者を発表したい。』
国王陛下が話し始めた。
『ベナット・シュトゥルム前へ』
「はい。」
宰相から名前を呼ばれ、俺は前に出て行き、カロリーヌの隣に立った。
『このベナット・シュトゥルムがカロリーヌの婚約者となった。皆、若い2人を暖かく見守ってくれると私は嬉しい。』
国王陛下の声が会場に響く。
俺は深く礼をし、カロリーヌは美しいカーテシーを行った。
皆から拍手と歓声が上がり、胸が熱くなった。
そのまま会場の中央に向かい、楽団が演奏を開始する。
「カロリーヌ様、私と踊っていただけますか?」
俺は片膝をつき、彼女に手を差し伸べる。
「はい。」
彼女の手を取り、私は少し腰を屈めた。
彼女とはかなり身長差がある。きっと彼女は踊りにくいんだろうな・・・。
戦争や戦う場面においては有利だが、相手がいるダンスとなるとこの体格が恨めしい。
「カロリーヌ様、今日もとても美しいです。そのネックレスを付けてくださったのですね。嬉しいです。」
「ベナットもとても格好いいわ。そのラペルピンの石って。」
「カロリーヌ様のネックレスを作る時に出た欠片で作ってもらいました。」
「そう。お揃いで嬉しいわ。」
一曲踊り終わると、俺たちはホールの中心から移動した。
カロリーヌとゆっくり話でも、と思っていたが、先ほど婚約発表をした事で、大勢の貴族が次から次へと挨拶に来た。
名前と爵位は一度では覚えきれないかもしれない。
「シュトゥルム卿は以前、私の王都の邸を建てる際に現場で手伝っていただいたとか。力作業が得意でいらっしゃるのですね。」
「どちらのお邸か分かりませんが、以前は色々なお邸の建築現場に立ち合わせていただいておりましたので、その時のことでしょう。力作業は得意ですので、何かお困り事があれば協力できるかと思います。」
「そ、そうですか。それは有難いですな。では私はこれで。」
屋敷を建てた時に手伝ったことをわざわざ伝えてくれたのかと思ったら、何だか慌てて去っていった。何だろう?
「シュトゥルム卿は以前、戦争に参加していたとか。武闘大会でも優勝されてて、武器の扱いはとても得意なようですな。
怒らせないよう気をつけなければなりませんかな?ははは」
「いえ。私のことを怒らせないようになど、そのような気遣いは不要です。まだまだ至らぬ点が多い未熟者ですので、厳しくご指導頂ければと思います。
私は元々傭兵をやっておりましたので、武器の扱いは得意です。
しかし、武器は皆を守るために振るうものです。今後はこの国を守るためだけに使います。」
「そ、そうか。では、私はそろそろ失礼するよ。」
せっかく話しかけて貰ったが、慌てたように早々に去って行く者が多いように感じた。
「カロリーヌ様、私は何か返答を間違えましたか?」
「ふふふ、良いのよ。ベナットはそのままのあなたでいてくれれば良いの。」
「はい。」
大丈夫そうだ。良かった。
話しかけてくれた貴族の中には、家督を継げない次男以下の令息から、剣術についての質問や、剣術を教えてほしいという声もあった。
騎士団に入るか、そのまま実家のある領地で騎士や護衛になりたいのだと言う。
教えてほしいという件については団長に相談する事にした。
今日は初めて会う人達と色々話して疲れたな。
でもこうして、貴族になった事でカロリーヌに一歩近づけた。
カロリーヌの隣に立つことができたことが嬉しい。
これからも驕らず、精進していきたい。
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