虹色の石
「ベナット、優勝おめでとう。子供達にも大人気ね。」
カロリーヌが俺を見つけてくれた。
「あぁ、こんなことは初めてだ。」
「みんな楽しそうだったわね。」
「カロリーヌ、この後話がしたいのだが、時間は取れるだろうか?」
「いいわよ。」
とうとうこの日が来た。
森にデートに行った日からずっと決めていた。
武闘大会で優勝したら、魔女の婆さんから譲って貰った虹を閉じ込めた石を渡す。
そして、俺の嫁になって欲しいと告げると。
武闘大会よりも、初めて国王陛下と会った時よりも、緊張している。
やはり、カロリーヌの反応が気になる。喜んでくれるだろうか。
俺は寮の部屋へ戻り、リボンが掛けられた小さな箱を手に取った。
初め、石をそのまま渡そうと考えていた。しかし、同僚のカイにその事を話すと、有り得ないと言われた。
石だけ貰っても困ると。女性に渡すならアクセサリーに加工して渡した方がいいと。
それで俺は、街にある宝飾品店に行き、石をネックレスに加工してもらった。
その時に、彼女への贈り物だと言うと、綺麗な箱に入れてリボンを掛けてくれた。
俺は、王都に帰ってきた時に着ていた、婆さんに選んでもらった騎士のような服を着て、髪も何となく整えた。
カロリーヌが指定した庭園のガゼボで緊張しながら待っていると、しばらくしてカロリーヌがやってきた。
「ベナット、待たせちゃったかしら?」
「いや大丈夫だ。」
「来てくれてありがとう。」
「どうしたの?その格好。ベナットが王都に戻ってきた時に着ていた服ね。よく似合っていて格好良いわ。」
覚えていてくれたんだな。
「ありがとう。カロリーヌは今日はもため息が出るほど美しい。」
今日のカロリーヌは、王族として武闘大会の観戦をしたため、綺麗なドレスを着て、髪も綺麗に結われている。
動きやすい格好で、髪を高い位置で一つにまとめている姿も凛として美しいが、ドレスで着飾った彼女も優美で輝いている。
「あら、ありがとう。」
微笑む彼女にドキドキと胸が高鳴る。
どうやって切り出せばいいのか・・・。
「えっと、あー、その・・・。」
「どうしたの?」
「武闘大会で優勝できたら、カロリーヌに伝えようと思っていた事があるんだ。」
「何かしら?」
俺は両膝を床に付いて、カロリーヌと同じ目線になった。
「カロリーヌ、あなたのことを一生大切にします。どうか私と結婚して欲しい。」
カロリーヌの手をとり、手の甲にキスをして、そして彼女の返答を待った。
「ベナット、もちろんよ。」
嬉しそうに頬を染めた彼女は、やっぱり女神様のように美しかった。
「それと、これを受け取ってもらえないだろうか。」
リボンがかかった小さな箱を彼女に差し出した。
「はい。開けてもいいかしら?」
「もちろん。」
「カロリーヌが気に入ってくれるか分からないけど・・・」
「え?ネックレス?これ・・・。」
「あぁ。あまり好みではなかったか?」
「そんな事ないわ。初めて見る石だったから驚いたの。とても綺麗な石ね。まるで虹を閉じ込めたみたい。・・・素敵。
嬉しい。ありがとう。」
「あぁ。喜んでもらえて良かった。」
良かった。気に入らないと言われたらどうしようかと思った。
「ベナットが付けてくれる?」
「わ、分かった。」
ネックレスの金具は小さくて、壊れないように・・・四苦八苦しながらも、なんとか付けられた。
「似合うかしら?」
振り向いて微笑む彼女に心臓の鼓動がどんどん高まる。
「よく似合ってるよ。」
「ベナット、ありがとう、大切にするわ。」
カロリーヌが愛おしい・・・。
「カロリーヌ、愛してる。抱き締めてもいいか?」
「もちろんよ。」
カロリーヌが俺の腕の中にゆっくりと収まると、俺の胸に頬を寄せた。
俺は彼女をそっと包み込んで、彼女の頭にキスをした。
「ベナットの心臓がドキドキしているわ。」
「カロリーヌの事が好きすぎて、ドキドキしてしまうんだ。」
「ふふふ。私もドキドキしているわ。」
「そうか。お揃いだな。」
「ふふふ」
顔を見合わせて2人で笑った。
「ねえベナット、まだキスはベナットからしてくれないの?」
「いいのか?」
そうか、認めてもらうまではと思っていたけど、国王陛下には先日認めてもらっている。
「ベナット、大好きよ。」
カロリーヌは俺の首に腕を回して頬を染めた。
「カロリーヌ・・・俺も、カロリーヌのことが大好きだ。」
俺は彼女の額にキスをした。
「好きだよ。」
次は彼女の右の頬にキスをして、
「世界で一番大好きだ。」
左の頬にもキスをした。
「・・・そんなのじゃ足りないわ。」
唇へのキスは、彼女からだった。
すぐに離れてしまう彼女がもっと欲しくて、
「俺も足りない。」
離れようとする彼女の、腰と後頭部に手を添えて、彼女を引き寄せる。
触れた唇の端から、彼女の吐息が漏れて、俺は夢中でキスをした。
ずっと求めていた彼女の甘い感触。もう止められない。温かくて、甘くて、切なくて、胸が苦しくて、もう彼女から離れられそうにない。
結局、カロリーヌが俺の胸を押したので、離れた。
離れた唇が寂しい。
「カロリーヌ愛してる。」
「私もべナットのこと愛しているわ。」
俺は彼女の額に、こめかみに、頬に、たくさんキスをして、優しく包み込むように抱き締めた。
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