武闘大会と子供達

とうとう訪れた武闘大会当日。



「ベナット、緊張しているの?」

「あぁ、まぁ・・・。」


武闘大会は国内から腕に自信がある者が参加する。たまに国外から参加する者も居るが、大抵は騎士団に所属する団員や、貴族お抱えの騎士、貴族の子息などが参加する。


優勝すれば表彰されたり、たまに騎士爵に叙爵されたり、希望すれば騎士団に所属できたりするが、賞金はないため賞金稼ぎが参加することはない。


シュタット王国は軍事国家ではないため、娯楽としての意味合いが強く、屋台などもたくさん出て、家族連れや恋人同士で賑わう。


ルールは簡単で、場外に出すか、降参させるか、審判が試合不能と判断したら試合終了となる。

使用できる武器は、木剣などの木製の武器のみ。

トーナメント方式で最後まで勝ち上がった者が優勝となる。

殺したり致命傷を与える事は禁止されており、故意に破った場合は罰せられる。


この大会で優勝すれば、カロリーヌにまた一歩近づける。

カロリーヌが見ている前で情けない姿は見せたくない。


ベナットは気合を入れて試合に臨んだ。



1回戦、2回戦と、試合開始の合図とともに相手に向かって駆け、相手の首元に木剣を添えて降参させるという瞬殺を行ったため、


「ベナット、お前が本気を出したら一瞬で決着が付いて面白くない。」

と言われ、団長権限でベナットは以降、両足を動かすことを禁止する異例のハンデが課された。




「カロリーヌ、俺は何か間違えたのか?」

「べナット、あなたは強すぎるの。この国にあなたと打ち合いが出来るような実力がある者はいないのよ。」


「そうか・・・。」

「どの相手も、あなたにとっては遅くて弱いと思うけど、何回か打ち合いをしてあげて。そうしたら見ている子供達も喜ぶわ。」


「分かった。やってみよう。」



その後、ベナットはカロリーヌに言われた通り、相手に怪我をさせない程度に何度か剣を合わせてから勝つということを繰り返した。




「今年の武闘大会の優勝者は、騎士団所属のベナット!検討した者たちに大きな拍手を!」


ワアァァァァァァァ!!




会場から出て行くと、5歳くらいの女の子が走ってきた。


「ねぇねぇ、私のこと高い高いできる?」

「いいぞー」

女の子を高く持ち上げると、キャーキャー言って喜んでくれた。


そんなことをしていたら、他にも子供がやってきて、高い高いをして欲しいだの、肩車して欲しいだの、腕にぶら下がりたいだの、勝手に俺の身体によじ登ってくる子まで現れた。


「危ないからちゃんと捕まってるんだぞー」


両肩に1人ずつ乗せて、腕にも左右に2人ずつぶら下げて、ゆらゆら揺らして、次の子と交代してと繰り返して、子供達はとても楽しそうだった。



10歳くらいの男の子がモジモシしながら近づいてきた。


「あの、僕もベナットさんみたいに強くなれますか?」

「あぁ、なれるぞ。

俺が剣を握り始めたのは9歳の時だったんだ。そこから頑張って毎日練習して、強くなったんだ。君も頑張って練習したら強くなれるぞ。」


「ホント?」

「本当だよ。」


「ありがとう。僕頑張る。」

ニコニコして手を振りながら走って行った。



子供が寄ってくるなんて、初めてだ。

何もしていないのに怖いと泣かれたことはあるけど・・・。


いいな。この国の武闘大会は。


試合をしている者も、見ているだけの者も、楽しそうだった。

戦争はかならず誰かが傷付いて、そして悲しい思いをする。

誰も傷付かず楽しいだけの戦いがあるなんて知らなかった。


この平和な世界が、他国にも広がっていけばいいのに。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る