陛下と傭兵 〜銀狼視点〜

「なぁ、私が泣かせたのか?」

「陛下が悪いわけではないかと・・・。」


「そうだよな?それならよかった。ベナットは真っ直ぐ過ぎて、有象無象どもが闊歩する貴族社会に入れることが心配になってきたぞ。」

「私たちでできる限りフォローするしかないですね。」


変な王達だな。こんな王だから国が平和なのか。



「疾風、いやべナットと呼ぶか。

あいつのことをそう呼ぶのは十数年ぶりか。ベナットは、ああいう奴なんだ。真っ直ぐ純粋な奴だから心配で俺らはここまで来た。」

「そうそう。聞いてるか分かんないけど、ベナットは奇襲を受けて怪我をしてね。

あれは完全にベナットを狙ってた。用意周到で、俺らも助けに行くのを阻まれてね・・・。

ベナットは5日も戦地で起きなかった。下手したらそのまま死んでいたかもしれない。」


「俺らも怪我をしてたから、一旦戦場から引いて、立て直す事にした。

それで1ヶ月ほど経って情報を集め始めたら、ベナットの過去を嗅ぎ回る奴を見つけて、それがこの国の奴だった。まだ完全に怪我が治っていないのにこの国に来ていると聞いて、この国を疑った。」


「戦争に関係ない国がベナットを調べてる事が怪しくてね。しかも自分の国に入れてる。

戦争に乗じてベナットを消そうとしたんじゃないかと思ってこの国に来たってのが本音。」

「この国がベナットをどうにかしようとしているのかを確かめるために、城門の前で遊んだのは悪かったと思ってる。」


「「すいませんでした。」」



「そうだったのですか。」

「それで、誤解は解けたのか?」


「そうですね。あんな号泣するベナットを見て、まだ疑えるほど俺らは捻くれてはいない。」

「そうそう。それに、国王様がベナットのこと好きなの、途中から分かっちゃったからねー

あんなに弱そうなのに女性の身で、他国の戦場まで駆けつけちゃう王女様の気持ちも本物だと感じたし。」


「俺らはベナットにあんな怪我をさせたブリーゼ国の奴らに報復に行くんで、そろそろ帰ります。」



「分かった。最後に一つ聞いていいか?」

「何だ?」

「傭兵というのは、ベナットや君らみたいな者が多いのか?

と言うのも、この国は長いこと戦争とは無縁だったせいで、傭兵という職業の者がほとんど居なくて知識が無いんだ。

私は失礼ながら、ベナットに会うまで、傭兵は戦争で戦い、戦争のない時は強盗や恐喝など野盗のような生活をしているのだと思っていた。」


「あぁ、別に間違ってもない。そういう奴らも確かにいるし、逆もある。普段は野盗で、金回りが悪い時に戦争が有れば参加して金を稼ぐとか。」

「そうか。じゃあ傭兵にも色々居るんだな。」


「そうだね。ベナットほど真っ直ぐな奴は少ないね。真っ直ぐな奴はすぐに死んじゃうから。」

「ベナットが盗賊のような奴らと繋がりがあるのかも聞きたいって事か。むしろそっちを調べてたか。」


「それはもう疑ってはいないんだが、聞けるなら聞きたい。」


「ベナットは無いな。強いから色々変な奴らからも誘われるけど、あいつは脅すとか騙すとかそういうのを嫌悪してる。」

「それにあいつは金にも女にも興味がないからねー

武器とか防具とかは必要なら買うけど、それ以外には金を使わない。だから悪い事をしてる奴らが金や女をチラつかせて誘っても全く靡かない。

カロリーヌ様?あの子が初恋だと思う。」


「そ、そうか。何か、色々貴重な話を聞かせてくれてありがとう。」



「もういいか?」


「うむ。また近くを通る事があれば、べナットに顔を見せてやってくれると嬉しい。」

「分かった。」

「うんいいよ。」


「じゃあ失礼します。」

銀狼と炎舞は部屋を出て行った。





廊下を少し進むと、ベナットが一人で待っていた。


「銀狼、炎舞、なんかすまん。恥ずかしい姿を見せた・・・。」


「あ?俺はお前と出会った日に泣いたのを見てる。今更だ。」

気にするなとベナットの肩を叩いた。

炎舞もニコニコ頷いている。



「俺は、お前達に何を返せる?」

「何の話だ?」


「傭兵だったら、戦いの中で援護するとか、退路を確保するとか、切り込むとか、色々できる事は浮かぶんだ。

けど、傭兵でなくなった俺は、お前達に何が出来る?」


「何もしなくていいよ。何も返さなくていい。」

「そうだよーベナットは幸せになればいい。それが俺たちの望み。」


「でも、心配してこんなに遠くまで来てくれて、今の身体の状態を見るために戦ってくれた。俺のことを思って色々してくれたのに・・・」

「それは俺らが勝手にやったことだ。別に見返りなんか求めてない。」

「そうだよ。」


「俺、2人のこと友達だと思っていい?」

「いいぞ。」

「いいよ。もうずっと前から友達だけどね。」


「ありがとう。」



「この後どうするんだ?」

「武器を回収したら、そのまま発つ。またヒンメル王国に行ってブリーゼ国蹴散らしてくるわ。」


「そうか。気をつけて。もし怪我をするような事があれば魔女の婆さんを頼るといい。あの人の腕は確かだ。」

「分かった。面白そうだから気が向いたら覗いてみるよ。」



ベナットは、王都の外門の外まで2人を送って行った。


「じゃあまたな。」

「あぁ。また。」

「結婚式には来るからねー」

「あ、あぁ。待ってる。」






その後、2ヶ月ほどで戦争は終わった。

炎舞と銀狼、他にもベナットの知り合いの二つ名持ちの傭兵達がド派手に暴れ回ったせいで、ブリーゼ国には甚大な被害が出て終結。国内もかなり荒れているそうだ。

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