泣き虫

「カロリーヌ様、ベナットが・・・すぐに来てください。」


「何かあったの?話をするだけじゃなかったの?」

「それが・・・ベナットが陛下の言葉に泣き出してしまって。」


「どういうこと?」

「とにかく一緒に来てください。」



宰相が慌てて私を呼びにきた時は、耳を疑った。

ベナットが泣き出した?

ベナットって、泣くんだ?



バタンッ


「お父様!ベナットを泣かせたってどういう事なの!?」

部屋のドアを開けると、ソファに座って俯き拳を握りしめて、ポタポタと涙を流すベナットがいた。


銀狼さんはベナットの頭を撫でているし、炎舞さんもソファの後ろに回って背中を撫でている。


私が近づくと、お2人は撫でていた手を引いた。ベナット・・・

頭を胸に抱えて、よしよしと撫でていると、銀狼さんがベナットを連れて行くよう言ったので、私はベナットの手を取って退室を促した。



ベナットは俯いたまま、私に手を引かれて着いてきた。

そんなベナットの様子に、部屋の外で待機していた近衛騎士も驚いてる。


私は空いていた部屋に入り、ベナットを座らせ、私も隣に座った。

ベナットの大きな手を握って落ち着くのを待った。



「・・・。」

「・・・。」


「あの・・・見た?よな・・・俺が、その・・・。」


「何を?ベナットが泣いてるところは見たわ。」

そう言うと、ベナットは両手で顔を覆って耳まで真っ赤にして悶えている。


きっと泣いてるところを私に見られたのが恥ずかしいのね。

何なのこれ?ベナットが可愛過ぎるわ。



「恥ずかしい・・・」


「大丈夫。私もあなたの前で何度も泣いてるわ。」

「そ、そうか・・・」


「それでベナット、何があったか聞いてもいい?」

彼は俯きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。



「あぁ。銀狼と炎舞は、俺がこの国に戦争の道具として利用されるのではないかと心配してくれて、

そしたら国王陛下と宰相が、そんなことはしないと・・・。


王女の婿が傭兵ではいけないから、騎士団に入れて騎士爵を与えようと思っていたって。


俺が戦いたくないなら戦わなくていいって。その時は別の方法を考えるって・・・。」


「そう。」

お父様、そんな事考えてたのね。

それに、もう私とベナットのこと、認めてくれていたのね。



「銀狼や炎舞が俺のことを心配してくれるのも嬉しかったし、国王陛下が俺のことを戦争の道具ではなく、カロリーヌの婿と認めてくれた事が嬉しかった。そしたら、色々な思いが込み上げて・・・」


「ベナット・・・」

このクマのように大きな体の彼は、本当に真っ直ぐで、優しい。

大好きなのは変わらないけど、私も彼のことを大切にしたいと思った。




「ベナットはなぜ傭兵になったの?」

そんな優しい彼が、なぜ戦争に参加する傭兵をやっていたのかが気になった。


「俺は、小さな村で産まれたんだけど、9歳の時に戦争で両親も、長老も、村のみんなが殺されて村が無くなった。

何も悪いことをしていないのに、兵でもない皆んなが一方的に殺された。


俺のように、大切な人を理不尽に奪われることを防ぎたかった。

関係ない人を巻き込む前に自分が戦争を終わらせることができればいいと思って、傭兵になったんだ。」


強くて、優しい、彼らしい理由にホッとした。それと同時に、幼い頃に両親を亡くして苦労してきただろうことが想像できて、胸が痛くなった。



「そうだったのね。いつから戦争に参加を?」

「村の皆んなが殺されてすぐ。敵が捨てていったダガーを拾って、その戦争に参加した。」


「そんな小さな頃から・・・。」


「その時に銀狼に会って、銀狼は俺に傭兵登録のやり方を教えてくれて、ボロボロのダガーを研いでくれたんだ。」


「そんなに昔からの知り合いなのね。」

「あぁ。その2年後くらいに炎舞とも仲良くなった。」

小さい頃のベナットを知っている2人が少し羨ましいと思った。



「俺は、戦うことしかしてこなかったし、親もいないし、どれだけ努力をしても、国王陛下に認められることは無いと思っていた。

この国に戦争の道具として使い潰されたとしても、カロリーヌの近くにいられるならそれでいいと思っていたんだ。」


「どうして・・・?」

そんなに自分のことを卑下して、ベナットは素晴らしい人なのに。



「俺は元傭兵で、カロリーヌはこの国の王女様で、そこには絶対に埋められない、身分という深い溝があって、どうにもならないと思っていた。

カロリーヌを好きになればなるほどに、苦しかったし。いつこの幸せが無くなってしまうのかとずっと怖かった。」


「そんな・・・。」

ずっとベナットを苦しめていたなんて・・・



「国王陛下が、俺とカロリーヌの事を認めてくれているなんて、思いもしなかった。」


「そんな事ないわ。あなたは素晴らしい人よ。戦いの実力も凄いけど、私はあなたが襲撃から守ってくれたから好きになったんじゃ無いの。

文句を言いながらも、ずっと私の事を気遣ってくれて、手を差し伸べてくれて、いけない事はいけないって言ってくれて、いつでも真っ直ぐなあなただから好きになったの。それは皆んなにも伝わっているわ。」


「カロリーヌ・・・。」

ベナットの、目から涙が溢れて頬を伝った。

いつか、俺は泣かないとか言ってたのに、ベナットも泣き虫なんじゃない。


「ふふふ。」

「俺は最近、恥ずかしいところばかりカロリーヌに見せている気がする。」


「そんなことないわ。そんなところも含めて全部大好きよ。」

落ち込んだ様子のベナットに、私はそう言って彼の頬にキスをした。

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