みんなの優しさ 〜銀狼視点〜

俺たちは向かい合ってソファーに座っている。


向こう側は、この国の王と宰相。こちらは俺と炎舞と疾風。疾風を挟んで左右に俺らが座っている。


「時間をいただきありがとう。」


「俺らは傭兵で丁寧な言葉は得意じゃない。このままの喋り方でいいか?」

不敬と言われて刃を向けられても、ここの兵に遅れを取ることはない。しかし、疾風の立場を悪くするのも憚られたため、先に許可を取ることにした。


「あぁ、言葉遣いは気にしなくていい。ベナットも敬語は使わなくていいぞ。前に無理してボロが出たのは面白かったが。ふふふ」


「俺たちがこの国に来た理由は聞いているか?」

「あぁ、すまない。

この国の王女であるカロリーヌが無断で城を抜け出してベナットを追って戦場に行ってな。どんな人物か気になって調べた。」


「そうか。」

「ここに住んでいた頃の情報では、頭は爆発、顔は大半が髭に覆われ、毛皮を着て歩いていると聞いていて、野蛮な印象があった。

戦争からこの国へ戻ってきたベナットを呼び寄せると、清潔感のある青年が現れて、辿々しくも敬語を話した。

事前情報とのあまりの差に、傭兵としての彼を知りたいと思った。」


「・・・。」

疾風は渋い顔をして黙っている。



「しかし、勝手に過去を調べるような真似をすればいい気はしないだろう。

すまない、ベナット。」

王は意外にも元傭兵のベナットに頭を下げた。


「いえ、私は元傭兵ですし、カロリーヌのことを思っての事だと理解しています。

調べられて困るような過去はありませんし、気にしていません。」


「そうか。ベナットは心が広いな。」

何だか王は嬉しそうだった。

この王はもう疾風の事を認めているのか。



「疾風が気にしてないなら、俺らから言うことは何もないよねー」

「そうだな。ただ、疾風は真面目で優しい奴なんだ。こいつを利用して他国に戦争を仕掛けるとか、殺しの道具に利用するような事があっては困る。」


「そこは銀狼だけじゃなく俺からも釘を刺したいね。」

「銀狼、炎舞・・・。」



「いやいや、ベナットにそんなことはさせんよ。」

「そこは心配しないでいただきたい。陛下はベナットの事が大好きですから。ベナットがそんな事を望まないのは分かっていますし、我が国は他国に戦争を仕掛ける気はありませんから。」


「そうだ。別にベナットの戦力を当てにして、国を守ってもらおうとも思っていない。

騎士団を鍛えてくれたら嬉しいとは思っているが・・・。

王女の婿として傭兵のままでは不味いから騎士団に入れて、騎士爵を与えるのが手っ取り早いと思っただけで、ベナットが戦う事が嫌なら別の方法を考えてもいいと思っている。」


ほう、ベナットはもう既にこの国の王の心を掴んでいたか。

この様子なら心配なさそうだな。



「国王陛下、私のためにそのような事を考えてくれていたのですね。知りませんでした・・・。」


「良かったな、疾風。王女の婿として、もう既に認められているじゃないか。」

俺が疾風の肩をバンバンと叩くと、疾風は俯いて膝の上で拳を握りしめていた。






ポタッ、ポタポタポタ、



「お、おい、どうした?」

疾風の目から涙が溢れていて、俺は動揺した。

王たちも炎舞もギョッとしている。



「俺は元々傭兵だし・・・親も産まれた村も戦争で無くなったから家族もいないし。


だから、俺はカロリーヌのことが好きだけど、誰よりも愛してるし、守りたいし、手放したくないけど、身分の壁が高くて、俺にはどうしようもなくて・・・


カロリーヌのためなら何でもすると言ったのは嘘じゃないけど、どんなに努力をしても、いつかは諦めなければならないと・・・


武闘大会で優勝すれば認めてやるって言葉も、傭兵の俺が珍しいから武闘大会に出して戦いを見てみたかっただけで、優勝しても認めてくれることはないと思ってた。


それに俺は、戦う事しか能がないのに、怪我をしてしまうし・・・全然元に戻らないし・・・でも、カロリーヌの側に居られるなら戦争の道具として使い潰されるだけでもいいと思ってた。


それなのに、国王陛下は、戦う事が嫌なら戦わなくてもいいみたいな事言うし、炎舞も銀狼も、こんな俺のこと心配してくれるし、銀狼は初めて会った時から優しかったけど、炎舞は俺のこと揶揄って遊ぶけど、皆んなが、カロリーヌも騎士団の皆んなも、色々今までの事が思い浮かんできて、この国が優しすぎて・・・


俺は、俺は・・・」



ポタポタ、ポタポタ、


疾風の握られた拳の上に涙が落ち続けていた。



「さ、宰相、カロリーヌを呼べ。」

「は、はい。ただいま。」

王はオロオロして、宰相はバタバタと走っていった。



「疾風・・お前、可愛いやつだな。」

俺はよしよしと頭を撫でてやった。

炎舞もソファの後ろに回って背中を撫でている。



バタバタと駆けてくる音が近づいて、ドアが乱暴に開けられた。


「お父様!ベナットを泣かせたってどういう事なの!?」

疾風の嫁が疾風に駆け寄って彼の頭を抱えて撫でる。


「いや、わ、私が泣かせたのか?私が悪いのか?」

王は娘にまで責められて更にオロオロしている。平和で面白い国だ。


「カロリーヌ様だっけ?疾風を連れてって慰めてあげて。別に誰も疾風を虐めてないから。

こいつ、純情すぎて感極まっちゃっただけだから。」


「はい。」

疾風は嫁と一緒に退室して行った。

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