王、団長から見た傭兵
彼らは、軽く打ち合う程度と言いながら、模擬剣ではなく迷わず真剣を選んだ。
最初はベナットと、プレートアーマーを身につけパルチザンを持った銀狼という男だった。
赤い髪の炎舞と呼ばれる男が柵の外に出た瞬間、ブワッと空気が揺れて、ピリピリと肌に刺激がきた。
「ワクワクするねー」
何とも緊張感のない声で、炎舞が俺の隣まで歩いてきて、隣で腕を組んだ。
ワクワク・・・
俺は冷や汗が背中を伝っているのだが。
「これが傭兵の戦いか・・・」
誰かが生唾をごくりと飲む音が聞こえた。
コイントスのような開始の合図はなく、いきなり始まった。
銀狼は、ベナットと違って走り回ると言うよりは、待ち構えて受け、必要があれば追うという戦い方だったので、
どのような動きをしているのかはだいたい見えた。
しかしベナットは、俺との模擬戦の時のように縦横無尽に駆け回り、残像がかろうじて見える程度だった。
武器同士が当たった時の金属音や風切音が聞こえる事から、打ち合いをしていることは分かったが、肝心の打ち合いはほぼ目で追えなかった。
「んー銀狼の肩はもう問題なさそうだね。疾風は、やっぱりちょっと腕が上げ辛そう。」
「そんなことまで分かるのか?」
「そりゃあね、戦場じゃ相手が弱ってるところを攻撃するのが1番楽だからね。そういうの見極められないと無駄に体力使っちゃう。」
「そうか。」
「ほら、見た?今の。変な技掛けて、銀狼は完全に遊んでる。というか楽しんでるね。」
「俺にはほとんど見えなかったんだが・・・。」
「団長さんは動体視力、鍛えた方がいいよ。見えたら面白いから。」
「なぁ、これ2割で軽く打ち合うって言ってたよな?」
「えぇ、彼らの会話からはそう聞こえました。」
陛下と宰相が話している。
「団長、模擬戦の時もこの速さだったのか?」
「同じくらいだと思いますが、木剣を真ん中で持っていたので駆け回る範囲は狭かったかと。」
「そうか。」
陛下に聞かれたが、正直、どちらが速いかと聞かれても分からない。
「あ、終わるよ。」
「え?」
そんな話をしているうちに、戦いは終わっていた。
終わった瞬間を見ていたはずだが、何が起きたのか分からずに、なんか終わってた。
終わったと分かったのは、ヒリヒリと張り詰めた空気がフワッと軽くなって、いつもの演習場の空気に戻ったからだった。
銀狼が柵の外に引いて、炎舞と交代した。
ベナットも、武器をハルバードからダガーに変えている。
「あれくらいの速さでゆっくりやるのも、なかなか楽しかった。」
銀狼が炎舞と入れ替えに俺の隣までやってきて言った。
「あれは、ゆっくりなのか?」
「疾風にしてはゆっくりだな。俺にとってはそこそこ速いけど。もう少し速くなると、俺にも余裕が無くなる。」
「戦場ではあんな動きの速い兵がほとんどなのか?」
「いや、そんなことは無い。
ただ、俺らは目立つから、すぐに大勢に囲まれる。一人一人の動きはそれ程でなくても、複数人を同時に相手するためには速さが必要だ。」
「そうか。」
「来るぞ。」
銀狼がそう言うと、またブワッと空気が揺れて、ピリピリするのは変わらないが、少し温度が上がった気がした。
「温度が上がった?」
「それが炎舞の纏う独特の空気だ。赤い髪で赤いシミター使ってるからってのもあるけど、この温度も炎舞の由縁だ。」
「そうなんだな。」
「今度は速いから瞬きしてるといいシーンを見逃すぞ。」
「・・・。」
さっきより速いのか。俺、見えんのかな?
炎舞は双剣使いで、ゆらゆらとゆっくり木の葉のように動き始めた。
そしてベナットがタッと地面を蹴った瞬間に2人とも見えなくなった。
だが、炎舞の赤い剣の残像はゆらゆらと揺らめき、あちこちでフワフワと舞っているように見えて、とても綺麗だった。
「これが疾風の今の全力の速度か・・・1ヶ月かけてこれだから焦ってたのか。」
「そんなに違うのか?」
「そうだな。昨日、怪我の前を100として50か60と言っていたが、そんな感じだ。
彼にとっては1番の武器が足だからな。思い通りの速度が出せない事が歯痒いんだろう。」
「そうか。」
「彼は真面目だからな。」
「キミもそう思うか?」
陛下が会話に入ってきた。
「ええ。俺は彼が一桁の歳の頃から知っている。一言で言えば清廉潔白だな。敵にすれば脅威だが、慕う者は多い。」
「銀狼と言ったか、あとで時間取れないか?炎舞とベナットも一緒に。」
「良いですよ。俺らも丁度話したい事がある。」
「そうか。分かった。」
陛下と銀狼の間で今後の話し合いの予定が組まれた。
そんな会話を横で聞いていると、
「決まったな。やはり疾風は強いな。」
銀狼がそう言うと、空気が軽くなり、終わったのだと知った。
>>銀狼視点
2人との戦いが終わり、ベナットは真っ先にカロリーヌの元にやってきた。
「ベナット、お疲れ様。素敵だったわ。あまり目で追えなかったけど・・・。」
「ありがとう。久しぶりに本気をだして楽しかった。」
「そう。良かったわね。」
「あぁ。」
お互いニコニコと微笑みながら、何とも可愛らしいカップルだ。
「あれで50か60の仕上がりって絶対に敵にしたくないねーでも、楽しかった。」
「炎舞、このあと王と疾風と話すことになった。」
「そうなの?分かった。」
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