炎舞と銀狼


ベナットが去った酒場で。


「どう思った?」

「思ったより元気だったね。」


「確かに。俺の中で最悪は左足はもうダメで、両腕は肘から下しか動かないかと思ってた。」

「嫁が王女だから傭兵には戻らないんだろうけど、傭兵にも戻れなくはないと思うくらい回復してるように見えたね。」



「ヒンメル王国の魔女の婆さんってもの気になったな。」

「その人の治療技術であそこまで回復したって事だよね?」



「そうだな。この国シュタットはどう思った?」


「んー城の守りからして、この国に疾風をどうにかできる奴はいないと思うなー

それに王女が他国の戦場に来ちゃうんだよ?平和な国なんだろうね。」

「確かにあのレベルで戦場まで追っかけて来るんだから、本当に疾風に惚れてるんだろうな。」


「でも、5日も目を覚まさなかったでしょ?嫁が来なかったら最悪な事になってたかもね。」

「そこは本当にそうだと思う。しかも疾風があの惚れ様。ククク。思い出しただけでも笑える。」



「ねえ、疾風っていつから傭兵のやってんの?」

「たぶん8歳か9歳かそのくらい。子供が戦場に汚いダガー1本持って来てたら異様だろ?

場違いなのに鋭い目で、そのくせ俺が声をかけたら泣いた。クククク」


「なにそれ、何でそんな面白そうな話を黙ってたの?ズルくない?俺が初めて会った時はもうそこそこ戦えてて、槍持ってた気がする。

で、なんで泣かしたの?」



「あいつ、戦争で自分の村が壊滅してんだ。だから、関係ない人を巻き込む前に自分が戦争を終わせるんだって言って。歳が一桁の子供だぜ?泣かせるだろ?」

「それだと疾風じゃなくて銀狼が泣いた事になるけど?」



「いや、俺は泣いてない。持ってたダガーも捨てられてたのを拾ったようなボロボロのやつで、研いでやって、傭兵の登録を教えてやった。

そうしたら泣いた。

戦争孤児になってから優しくされた事がなかったんだろう。」


「可愛いね。なんかでも、疾風らしい感じもする。で、その時銀狼は幾つだったの?」

「俺?今から15年くらい前だから15か16かそんくらいだろ。」


「え!疾風ってまだ25くらいなの?俺より上だと思ってた。銀狼はまぁ、そんなもんだよね。」

「お前はいくつなんだよ。人に聞いたんだからお前も言え。」


「俺は銀狼と同じか1個下くらい。」

「まぁそんなもんだよな。」



「そうか、疾風って若かったんだ・・・

じゃあ俺が面白半分で疾風を娼婦のところに連れて行った時、12歳くらいだったの?

なんか、幼気な少年に悪いことしたかも。その時、凄い勢いで逃げてったんだよね。」


「お前、何やってんだよ。」

「いやーもうあの時、俺とそんなに変わらないくらい背も高かったし、そんな子供が槍持って戦場にいると思わないしー」




「それよりあの奇襲だよな。

明らかに疾風を狙ってた。疾風の周りの被害が1番酷かったし。かなり強力な麻痺毒だっただろ?

矢の後、周りの兵を止めるための捨て駒と、直接疾風に向かった奴らでは実力に差がかなりあった。」


「だね。しかも、疾風の援護に向かえないように嫌な感じでネチネチ阻まれた。」

「それ、俺もやられた。それで無理に突破しようとして肩をやられた。」


「ブリーゼ国の参謀に、過去の戦争で疾風を見た奴がいるんだろう。それで脅威に思って最初に潰そうとした。

ただの傭兵があんな捨て駒大量投入するような奇襲はできんからな。」

「俺らがマークされてた事も考えると、傭兵から軍に成り上がった奴がいるのかもしれないよね?」


「疾風は目立つし、あいつの動きが良いだけでこっちが優勢だと錯覚して周りの士気が高まるからな。」

「あれ、本当ずるいよね。疾風いたらなんかヤバい時でも勝てそうって思っちゃうもんね。」


「あいつ自身は気付いてないけど、そういう空気を持ってることでも軍から重宝がられてる。反対に敵からは真っ先に潰したい的になるんだろうな。」



「ねえねえ、知ってる?疾風って、二つ名いっぱいあるんだよ。」

「いくつかは知ってる。風神、戦神、ゴットくらいか。」


「なんだ、知ってたんだ。面白いところでは、熊吉とか巨木とか。」

「はぁ?それ、二つ名じゃなくて悪口だろ。」



「でもさ、疾風がやっと戦場以外に居場所を見つけたなら、幸せになってもらいたいよね。」

「まぁ大丈夫だろ。あれだけ回復してるし、戦争に出なければ狙われることもない。

それに、もうあいつは傭兵じゃない。」



「それでなの?それで手合わせして見てやろうとか言って、結局銀狼は疾風と戦いたかったんだ?

それとも寂しかったの?」

「あいつの戦ってる時の空気、痺れるんだよな。あの空気、最後に感じたくなった。

まぁ、寂しいってのもあるかもな。」



「それは分かるよ。でも足も1ヶ月かけてやっと50か60とか言ってたし、無理させたらダメだからね。」

「お前はどの立場でものを言ってるんだ?

ズルい、俺も遅い疾風なら戦いたいとか言ってるのを俺はちゃんと聞いたぞ?」


「それは否定しなーい。戦ってみたい思いはあるもん。」



「まぁ、俺は互いに2割くらいでゆるく打ち合うくらいでいいわ。怪我の前の50の速さでも、俺には速すぎる。」

「俺もそれくらいでいい。あのちっこいダガー1本ならギリギリ、ハルバード持ち出されたら防戦一方になると思う。」


「楽しみだな。」

「そうだね。」


「そろそろあいつが勧めてくれたフォーゲル亭にでも行くか。」

「行こう。」

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