続・森デート



俺たちは馬のところまで戻り、サンドイッチを食べ、午後からはカロリーヌと共に、軽く訓練をした。


「ハァハァハァハァ、

ベナットは、あれだけの動きをしても、全然息が上がらないのね。」


「あぁ。まぁそうだな。」

彼女は自分の膝に手をつき、息を荒げている。



「水を飲むか?」

「えぇ、ありがとう。」

俺が水を渡すと、彼女は水をコクコクと上品に飲み、その姿が陽の光に照らされてキラキラと輝き、息を呑むほど美しかった。




「・・・ベナット、ベナットってば!」


「あ、あぁ、何だ?」

カロリーヌの呼びかけに気づかないほど、完全に見惚れていた・・・。


「どうしたのよ、ボーッとして。」

「あぁ、いや・・・。」


「もしかして、身体の調子が悪いんじゃないの?」

俺の目の前まで来て、心配そうに顔を見上げる彼女に、奥底に封印したはずの彼女への欲望が溢れてきて、胸が苦しくなる。



「違うんだ。身体の調子は悪くない。」

「じゃあなんで目を逸らしたのよ?」


「ちょっと待ってくれ。」

さらに距離を詰めてくる彼女に、俺は一歩引いて後ろを向いた。


胸に手を当てて深呼吸を繰り返していると、

彼女が背中にぶつかって、俺の腹に両手を回してきたため、ビクリとしてしまった。


「言わなきゃ分かんないわ・・・。身体の調子が悪いのを隠しているの?それとも私が、嫌なの?」


「カロリーヌが嫌なんて、そんなわけない。」


俺は腹に回された彼女の小さな手が少し震えているのに気付いて、俺の手を重ねて包み込んだ。

彼女を悲しませてしまった・・・。



「そう。じゃあなぜ?」


「・・・カロリーヌに陽の光が当たって、とても美しいと思って見惚れてた。」

「・・・。」


「国王陛下に認めてもらえるまでは、カロリーヌに手を出さないと決めたのに、欲望が抑えられなくなりそうで・・・ちょっと離れて落ち着こうと・・・。」

「ベナット・・・。」


「すまん。カロリーヌを不安にさせて、悲しませたかったわけじゃないんだ。

・・・格好悪くてごめん。」


「もう、バカね。」


カロリーヌの腕がスッと引かれて、俺の背中から離れていった。

嫌われたか。難しいな、恋愛は。大切にしたいのに、全然上手くいかない。



「ごめん。」

俺はガックリと両膝を付いて項垂れた。

何の自信もない。どれだけトレーニングを積んでも、どれだけ勉強をしても、全然自信に繋がらない。

どうしたら、何をしたら彼女の心を繋ぎ止めて置けるのか・・・。



この前の団長との模擬戦もそうだ。

確かに体力が落ちて思ったように動けなかった事もショックだったが、致し方無いと思う部分もあった。

それ以上に、彼女の期待を裏切ってしまった事や、武闘大会に出れず国王陛下に認めてもらえないかもしれない、そうしたら彼女に嫌われるのではないかという事が怖かった。

俺は、いつからこんな臆病者になったのか・・・。



カロリーヌが俺の前に来たが、俺は顔を上げることが出来なかった。


「ベナット、大好きよ。」

「え?」

彼女の言葉に顔を上げると、彼女の顔が目の前にあり、いつも見上げてくる彼女の目線は、膝立ちしている俺と同じ高さだった。


「ベナットが手を出さないなら、私が手を出すわ。」


カロリーヌはそう言うと、俺の首に両手を絡めてキスをした。

カロリーヌの柔らかい唇が離れると、頬を赤く染めて目を伏せるカロリーヌが可愛い。



「カロリーヌ・・・。」

俺は思わずカロリーヌを抱きしめた。



「ベナットも言って。私の事が好きだって言って。」


「カロリーヌ、好きだよ。」

俺は、彼女が苦しくない程度に腕に力を込めた。


「私だって不安なのよ。あなたはとても素晴らしい人で、とても強くて、皆んなにも慕われているし。

勉強を無理強いしてるんじゃないかって、いつか私の元からいなくなってしまうんじゃないかって・・・。」


「そんなことはない。不安にさせてごめん。俺はカロリーヌの側にずっといる。カロリーヌが望んでくれるならずっと。」

俺はカロリーヌの頭をゆっくり撫でた。


彼女も王女のような何でも持っていて雲の上にいる人でも、不安なんだ・・・



「ずっとベナットの側にいたい。」

「あぁ。ずっと側にいよう。」


「ベナット・・・」


「カロリーヌが不安に思うことなんか何もない。俺がこれまでもこれからも、愛するのはカロリーヌただ1人だけだ。

愛してるよ。」

「ベナット、私も愛してるわ。」



不安なのはお互い様だった。

俺たちは、顔を見合わせて、額をくっ付けて笑った。

クククク

ふふふふ


「「・・・。」」



気持ちを確かめ合っても、言葉をどれだけ重ねてもまだ全然足りない。

彼女の吐息が、体温が、甘い香りが、俺を翻弄する。




ヒヒーン、ヒヒーン

ヴィントの嗎が聞こえた。


「何だ?誰か来たか?」

立ち上がってカロリーヌと一緒にヴィントのところに向かうと、騎士団の2人がいた。


「どうした?何かあったか?」


「それが・・・城門のところでやたら強い2人の男が疾風を出せと言っていて、俺たちでは押さえられない。」

「分かった。すぐに行こう。」


「私も行くわ。」

「ダメだ。危険かもしれない。カロリーヌはその2人とゆっくり来い。」


「仕方ないわね、分かったわ。」


俺はヴィントに跨り、一気に駆けた。

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