森デート


騎士団に入ってから1ヶ月経った。

あと半月ほどで武闘大会だ。



この1ヶ月、落ちた筋力や体力を取り戻すため、俺は毎朝、早朝に起きてトレーニングを重ねた。


特に、俺の二つ名の由縁ともなった、足の回復に重点を置いたメニューにした。

俺も、俺も、と一緒にトレーニングする団員が増え、今ではほとんどの団員が早朝トレーニングを行っている。


メニューは俺と同じ者も居れば、別メニューの者もいて、その者達のトレーニングメニューも俺が考えている。



休みの日には森へ訓練に出掛けて、それにも何人かの団員が付いてくる。

しかし、明日の休みはカロリーヌが俺と森へ行くと言うと、他の者は遠慮して明日はやめておくと言うので、2人で行くことになった。



「ベナット、明日はデートね。」


「森へ訓練に行くだけだぞ?デートは街で楽しく過ごす事だろう?」

デートは恋人同士が、街で買い物を楽しんだり、可愛いお菓子を食べに行ったりする事だろう。



そこで気付いた。

俺は王都に来てから、カロリーヌのためと言いつつ、俺の体力回復のためのトレーニングや、勉強にかまけて、カロリーヌとの時間を取ってなかった。


魔女の婆さんにも言われてた。

彼女のために色々頑張るのは良いが、彼女の気持ちを守ってやれと。


俺は、カロリーヌの気持ちを守れているだろうか?



「ベナット、お昼はサンドイッチを持っていきましょう。」

「あぁ。」

彼女の気持ちを守るって、どうすれば良いんだろう?

悲しませない、寂しい思いをさせない、くらいしか浮かばなかった。



何も浮かばないまま翌日になって、俺とカロリーヌは、それぞれ馬に跨って森へ向かった。

大きな馬のヴィントは森が好きで、森を歩く時は足が軽く楽しそうだ。



いつも訓練している、戦争に行く前にカロリーヌと話した場所まで行き、ヴィントとカロリーヌの馬を木に繋いだ。


いつもなら、そのまま軽く身体をほぐして訓練に入るのだが、今日はカロリーヌと森の中を散歩する事にした。


「カロリーヌ、少し歩かないか?」

「訓練はしなくていいの?」


「今日はいいんだ。せっかくカロリーヌと一緒に居られるんだから。」

「そう。」


「ダメだったか?」

何か間違えただろうか?



「ベナットが無理して私のために訓練をしないならダメよ。」

「そんなことはない。俺は最近、勉強とトレーニングばかりでカロリーヌとの時間が取れていなかった。」


「そんなのはいいのよ。」

「ダメだ。カロリーヌに寂しい思いをさせた。」


「そんなことないわ。ベナットが私のために勉強やトレーニングを頑張ってくれている事が嬉しい。寂しくなんかないわ。」

「カロリーヌ・・・。」

本当にカロリーヌは、優しくて、温かくて、愛おしい。



「でも、どうしてもって言うなら、抱っこして。ベナットの左腕は私の特等席なの。」


「分かった。」

俺はカロリーヌを左腕で抱き上げて腕に座らせた状態で歩き出した。

今日はカロリーヌと2人きりなのに監視がいない。初日のあの時は特別俺を警戒していたのかもしれない。



「ありがとう。」

カロリーヌは、俺の肩に右手を添えて嬉しそうに俺を見た。


カロリーヌが嬉しいと、俺も嬉しい。

久しぶりにカロリーヌが近くて、ドキドキした。



しばらく歩くと、俺はカロリーヌを抱えたまま、岩の上に腰を下ろした。

そして、前に彼女が聞きたがっていた、魔女の婆さんの話をした。


「私もその方にお会いしたいわ。」


「そうだな。ヒンメル王国に行くことがあれば紹介しよう。」

王都に帰ってきてから、婆さんの教えてくれたことがとても役に立っているし、やはり婆さんの治療は凄かったのだと実感した。

もっときちんとお礼がしたいと思った。


「戦争はどうなってるのかしらね・・・。」

「炎舞と銀狼も引いたからな。ヒンメル王国は苦戦しているかもしれん。でも、あいつら怪我が治ったらまた戦地に現れるかもな。」


「あのお2人はそんなに、戦況を左右するほどの実力なの?」

「あぁ。あいつらは強い。傭兵の中でも有名でな。一騎当千と言われるやつだ。戦地に行くとだいたい顔を合わせる。」



「ベナットもそうなんでしょ?」

「さぁ、どうかな。」

戦争が長引くとヒンメル王国内の情勢も変わる。婆さんが心配だな。



婆さんと言えば、カロリーヌへの贈り物の石もまだ渡せていないし・・・。

あれは、武闘大会で優勝できたら渡すか。

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