模擬戦後
「ベナット!」
カロリーヌが俺を呼んだため、一度は振り向いて彼女を見たが、目を伏せて首を左右に振ると、また出口に向かった。
「待って!ベナット!」
彼女が走ってくる足音が聞こえるが、俺は気にせず出口を目指した。
出口を出たところで、カロリーヌは追いついた。
「もう。何で勝手に出ていくの?」
「すまん。」
俺は気まずくて目を逸らした。
そのまま演習場の外壁の前に蹲り、両腕で頭を抱えた。
「俺は、武闘大会に出られないかもしれない・・・。」
「何でよ?」
「言い訳になるけど、怪我をしてから今まで、ほぼ半月は意識が無くて、それ以降も安静にしていて、運動も身体の調整もしてこなかった。」
「それは回復を優先させたのだから仕方ないことよ。」
「あぁ。でもさっき怪我をしてから初めて全力で駆けたら、足が思うように動かなかった。左は矢の傷が治りきっていないせいかもしれないが、右もかなり筋力が衰えていた。」
「そ、そう・・・。」
「それに、胸の傷口が完全じゃないから、引き攣って、腕が肩より上がらなかった。
それで木剣を真ん中で持ったけど、小さなヒットをくり返すだけで決め手に欠けて、イマイチだっただろ?」
「そんなことないわ。」
「いいんだ。慰めてくれなくても、不甲斐なさは自分が1番よく分かってる。」
「不甲斐なくなんかないわ。」
「それに、団長は全然動かなかった。俺の剣を防ぎもしないし、攻撃も仕掛けてこなかった。
相手をするに値しないと判断されたんだろう・・・。
たぶん団長は決定打を待ってくれてたんだが、今の俺の状態では無理だったから、無理に終わらせたんだ。」
「えぇぇぇぇ??
演習場を出て行ったのはそれが理由?」
「あぁ。すまん。カロリーヌには情けない姿しか見せていない。俺のこと嫌いになったか?」
元の調子に戻すまでには、どれくらい時間がかかるか分からない。
はぁぁぁぁぁ・・・
俺は大きなため息を吐いた。
「あの、ベナットは勘違いしていると思うんだけど・・・。」
「何をだ?」
「私は正直、ベナットの動きが速すぎて目で追えなかったわ。剣筋も、見えたのは団長が止めた一打だけよ。」
「そうか。」
「足が治ってない事も気づかなかったし、腕が上がらない事にも気付けなかった。」
「そうか。」
「だから、団長が動かなかったのは、ベナットに対して相手をするに値しないと判断した結果ではないと思うの。
動けなかったんじゃないかしら?」
「そんなわけないだろう。」
「とにかく、一度団長に話を聞きましょう。私は違うと思うけど、もしベナットが想像したような考えだったとしても、それならそれで対策を一緒に考えて貰えばいいじゃない。」
「分かった・・・。カロリーヌのためなら何だってやるって決めたんだ。聞きに行こう。」
「それに、ベナットは情けない姿なんか見せてないし、嫌いになる理由がないわ。」
「そうか。ありがとう。カロリーヌは優しいな。」
俺は立ちあがって、カロリーヌと共に演習場に入ると、
ウオォォォォォ!!
ワアァァァァァァァ!!
なぜか歓声が起こった。
「何だ?」
不安になりながら団長の元へ向かうと、団長は一段上がった柵と柵の間に座っていた。
団長はそこから飛び降りると、ゆっくり歩いてきて、俺の両肩に手を乗せた。
「なぁ、お前、団長やる?」
「はぁ?」
全然意味が分からない。
「団長、ベナットってば勘違いしてるのよ。」
「そんな事はない。」
「ベナットはちょっと黙って聞いてて。」
「ぐっ、分かった・・・。死刑宣告を待つようだ・・・。」
俺たちの周りには、ほとんど全員か?と思うくらいの数の団員が集まっており、その中でカロリーヌは、さっき外で俺が話した内容を団長に向かって話し始めた。
こんな公開処刑ありか?
俺は肩をすくめて俯いたままカロリーヌの話が終わるのを待った。
「身体が本調子じゃないとか言い訳して申し訳ない。これが今の俺に出せる全力です。
団長が直々に相手してくれたのに、期待はずれ、だよな・・・二つ名まで知られて恥ずかしい・・・」
俺はカロリーヌが話終わるとすぐに団長に向かって頭を下げて、そのまま蹲って頭を抱えた。
「ほら、この調子よ。自分の能力が落ちていた事がショックだったようで、しかも団長が手も足も出さないせいで、余計勘違いしたみたい。」
「ぐぅ・・・人の傷を抉るんじゃねぇ!手も足も出さなかったんじゃなくて、出したくても出せなかったの!
じゃあ聞くけど、こん中で誰かベナットの動きが追えた奴はいるか?」
「「「・・・。」」」
「ほらなー、誰もいない。」
「でも、見て、ほらベナット聞いてないわよ。なんかアドバイスしてあげたら?団長。」
「はぁ?無理だろ。無いだろ。手も足も出ねー奴に何のアドバイスがあんだよ?むしろ俺が欲しいわ。」
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