騎士団長との模擬戦
「模擬戦用の刃を潰した武器だが、お前の得意なハルバードが無い。
槍かロングソードか・・・いや、刃を潰していても危ないかもしれんから今回は木剣にしよう。
長さは2.5mくらいの槍サイズか、90cmくらいのロングソードサイズか、どっちがいい?」
「どちらでも。」
「それは、どちらも問題なく使いこなせるということか?それとも、どちらも不得手ということか?」
「木剣は子供の頃にしか触ったことがなくて、使えるかどうかが分からない。
長さだけを考えれば槍の方がいいと思うが、軽いと振り回せるか分からない。
ダガーのように使うとしたら短い方が使いやすいとも思うが、使ったことがなくて判断ができない。」
「そうか。確かにハルバードを振り回しているのに木の棒は感覚が違いすぎるか。短い方で行ってみるか。
今回は勝敗や強さではなく、どの隊に所属させるかの動きや適正を見たいから、合わなければ長い方でもやってみよう。」
「はい。それでお願いします。あの、強さではない動きや適正はどうやって見せればいい?寸止めとか?」
「別にお前は気にしなくていい。俺が勝手に判断するから本気で来てくれればそれでいい。木剣だし革鎧着けるからな、寸止めも首や顔面以外は必要ない。俺もしない。」
「分かった。」
俺と団長は90cmほどの木剣を手に10mほどの距離で向き合った。
団長はロングソードを持つように順手で持って構え、オレはダガーを持つように逆手で持った。
構えとか特にないので両手は下ろして普通に立った。
コインを投げて落ちたらそれが開始の合図だそうだ。
そんな戦い初めてだった。
カロリーヌが柵の外にでて、コインを投げた。
視界の端には団長を一応捉えているが、俺はカロリーヌの方に体ごと向き、コインが落ちていくのをジッと見つめた。
コインが地面と接触する瞬間、カランと金属音が鳴った。
団長に向かって駆けるが、あの怪我の後、全力で駆けること自体が初めてで、矢を受けた左足はもちろん、右足も思った以上に動きが悪かった。
団長の目前まで辿り着くも、胸の傷がまだ癒ていないせいか、剣を持った腕の筋が突っ張り、肩より上に上がらず、振り上げようとした俺の剣は団長の剣に止められた。
俺は一旦後ろに飛んで距離を取った。
ここ1ヶ月のうち半分は寝ていたし、残りの半月もほとんど安静で運動も身体の調整もやってきていない。
武闘大会で優勝するどころか、まともに戦うこともままならないかもしれない。
とりあえず動かせる限界まで足を使って駆け回って翻弄し、木剣は剣の真ん中で持って腕が上がらないところを誤魔化しながら小さなヒットを稼ぐしかない。
カロリーヌにいいところを見せられないのが非常に残念だ・・・。
俺は再び団長にの元へ駆け、団長を中心に半径3mくらいを縦横無尽に駆け回りながら、小さなヒットを腕や足を中心に入れていった。
団長からの距離を3mにしたのは、今の足の速度で走り回れる限界の距離だ。
これ以上離れるとヒットが入りにくいだろうし、攻撃を受けた時に受けられない。
しかし俺は、駆け回りながら3度ほど軽いヒットを与えても団長がほとんど動かないことが気になった。
動こうとする気配はあるが、実際に動いたのは、一打目に俺が腕が上がらない事に戸惑った時だけだ。
それ以外は、俺の攻撃に対して防ぐこともしない。小さなヒットだから防ぐまでもないということか・・・。
それはいいとしても、なぜ攻撃してこない?
動きを確認するなら、攻撃した時の返しや避け方も見るはずでは?
それとも、俺が相手をするに値しないレベルということか?
足の遅さか、腕の可動域が悪いのがバレたか?
終わらせた方がいいか?団長が自ら終わらせないということは、俺が決定打を放つのを待っているのか?
しかし、今の身体の状態ではこれが限界で、もうこれ以上は無理だ。
自分で終わらせるか・・・
せっかく時間をもらって、団員達も見に来てくれたのに、見せ場が無くて申し訳ない。
俺は今までで1番早く切り込むと、団長の首元に木剣を添えて止まった。
「あの・・・団長、実力不足で申し訳ございません。」
身体の調子が良くないとは言え、不甲斐ない。長い方の木剣を使っても大差無いだろう。下手したらもっと動きは悪くなる。
静まり返って誰も一言も声を発しないし。
俺は団長に向かって頭を下げると、ガックリと肩を落として演習場の出口に向かった。
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