陛下と宰相

ベナットとカロリーヌが退室し、ドアがパタリと閉まった。



「なぁ、ベナットの見た目は、私の想像と違ったが、お前の想像とは相違なかったか?」

「私の想像とも違いました。」


「身体の大きさはクマと言えなくも無いが、髪は爆発しているのではなかったのか?髭で顔面が覆われているのではなかったのか?

毛皮を纏っているという情報はどこにいった?」

「私にも分かりません。」


「傭兵のくせにやけに爽やかだったな。」

「そうですね。野蛮な傭兵と言うより、誠実な騎士に見えました。」


「傭兵なんだよな?」

「戦地に行っていますし間違いないかと。」



「元々はどこかの国の騎士だったりしないか?」

「あの拙い敬語を聞く限り、過去に騎士であった可能性は低いかと・・・。」



「敬語、面白かったな。くくく。」

「そうですね。カロリーヌ様のために、一生懸命に使おうとしたんでしょうね。」


「途中で崩れて慌てて言い直すところが良かった。くくく。」

「良かったって何ですか?観劇の感想みたいですね。」



「あのカロリーヌを諌めていたな。」

「そうですね。カロリーヌ様も彼の言うことなら素直に聞くんでしょうね。」



「カロリーヌが他国の戦地へ行ったのを謝ったのも意外だった。」

「確かに。下手したら罰せられてもおかしくない状況で堂々としていましたね。」


「謝った上で、カロリーヌへの感謝を伝えてカロリーヌを庇った。その姿勢に、私は好感が持てた。」

「私も、彼には全体的に好感が持てました。」



「カロリーヌのためなら何でもすると言っていたが、果たして私が提示した課題を全てこなせるほど気概のある者なのか。」

「それはまだ分かりませんが、そうであってくれることを、私は願います。」



「強さは分からんな。体格だけ見れば頑丈で力も強そうには見えるが、技術はどうだろうな?」

「騎士団に報告をさせましょう。」

「そうしよう。」



「もう騎士団に着いているはずだが、影からの報告は?まさかカロリーヌに手を出していないだろうな?」

ヒラリと1枚の報告書が届けられた。


「来ました。」

「読んでくれ。」

「ほぅ。」

「何だ?早く読み上げよ。」

「・・・これを読み上げるのは無理です。私が恥ずかしい。」

「何?まさか手を出したのか?」


「いいえ、彼は自分はまだカロリーヌ様に相応しい男じゃないと、相応しくなるから待っていて欲しいと言ったようです。」

「ほう。」


「陛下、ご自分で読んで下さい。」

宰相はそう言って紙を陛下に渡した。


影から届いた報告書には、カロリーヌとベナットが部屋を出てから騎士団まで、会話から一挙手一投足が全て文字におこされていた。


「あいつらは何をしているんだ・・・。ベナットが簡単に一線を越えるような奴じゃなくて良かった。」

「それにしても二つ名持ちですか。もしかして、陛下はとんでもない逸材を国に引き入れようとしているのでは?」


「怖い事を言うな・・・。」

「影に気付いていることからも、かなりの腕かと。」



「私は選択を早まったか?」

「いいんじゃないですか?真面目そうですし。」


「うむ。」

「もう今日の仕事は終わりにしましょうか。」

「そうだな。色んな意味で酒が飲みたい気分だ。」

「はい。」

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