陛下と傭兵
城門で、俺は馬から降りた。
さっき呼びに来た人が、何か城に入る手続きをしてくれた。
「武器はあるか?あるなら出しなさい。」
「はい。」
俺はハルバードと、脇に刺した小さめのダガー、サバイバル用のナイフを騎士に渡した。
馬車や馬を預かる場所で馬を渡した。
この馬はカロリーヌの馬で俺の馬ではないんだが、まぁいいか。
この後で捕縛か?室内に入ってからか?
呼びに来た人に着いて、城に入った。
廊下をしばらく歩いていると、血の気が引いた顔をしている俺に気付いたカロリーヌが小声で話しかけてきた。
「ベナット、大丈夫?」
「あぁ、あ、いや、はい。」
「ふふふ、緊張してるの?」
「そうです。」
「その言葉遣い、どこで習ったの?」
「魔女の婆さん、あ、お婆様?に。」
「魔女?」
「はい。」
「また詳しく聞かせてくれる?」
「はい。」
「こちらの部屋で陛下がお待ちです。」
「はい。」
コンコン
「カロリーヌ様とベナット様をお連れしました。」
「入れ。」
「私はここで失礼します。」
案内をしてくれた人はドアを開けて、一礼をすると去って行った。
入って良いんだろうか・・・
入れって言われたから入っていいんだろうが・・・。
ごくりと唾を飲み込んで、意を決して部屋の中に入った。
中には男性が2人いた。
机の奥に座っている人と、横に立っている人。恐らく座っている人が陛下だろう。
入ったはいいがどうすればいい?
カロリーヌをチラリと見ると、なぜか不機嫌な様子で座っている人を見ていた。
「君が傭兵のベナットか?」
王様であろう人が話しかけてきた。
「はい。」
「そうか。」
「はい。」
「いつかはカロリーヌが襲撃に遭ったところを助けてもらったとか、感謝する。」
「いえ。」
敬語というのに自信がないため、なるべく話さないでやり過ごしたい。
間違えれば捕縛されるかもしれん。
「お父様、なぜベナットを呼び出したの?」
「カロリーヌが他国の戦地まで追いかけた男だ。気になるのは当然だろう。」
「ベナットはさっき王都に到着したばかりなのよ?長旅で疲れているのに休憩も与えずに呼びつけるのは良くないのでは?」
「カロリーヌ、様、わ、私は疲れていないから問題ない、です。あなたはこの国の王女様、です。国王陛下があなたの事を案じるのは当然のこと、と思います。」
物凄く辿々しい話し方だが大丈夫だろうか?
「ベナット・・・。」
「国王陛下、カロリーヌ、様が、城を抜け出して他国の戦地に来たこと、申し訳ない、です。
私が、この国を出る前に絶対に来ないよう止めておくべき、でした。」
「ほう。」
「しかし、カロリーヌ様が戦地で看病してくれた、くれましたから、私は、命が助かりました。
カロリーヌ様には、感謝しています。」
俺は床に片膝を付いて、深く頭を下げた。
しかし、頭を上げるタイミングを見失った。
「ベナット・・・。
あなたは謝らなくていいのよ。私が勝手にした事なんだから。
お父様も、彼を責めるようなことはしないで。彼に責任はないわ。彼に罰を与えるようなことがあったら絶対に許さない!」
「うむ。幸いカロリーヌが戦地に行ったことはここにいる4人しか知らん。
・・・なぁ、この男お前はどう思う?」
俺、どうなるんだ?このまま頭下げたままでいいのか?
「陛下の判断にお任せしますよ。
まだちゃんと会話のやり取りをしていないので、判断しかねますが、今までの内容からは意外にまともかと。」
「そうだな。じゃあ昨日の案で進めるか。」
「かしこまりました。」
何の話だ?斬首か?
「ベナット、頭を上げていいのよ?」
「はい。」
俺はカロリーヌに言われて頭を上げて立ち上がった。
「で、お父様、何の話なの?」
「ベナット、お前は強いんだろ?今度開催される武闘大会に出てもらう。
そこで優勝すれば、カロリーヌとのことを認めてやろう。」
「え?は、はい。」
全然意味が分からないが、俺は武闘大会に出ることになったようだ。
「お父様、それは本当?でも、ベナットは怪我を負ってからまだ日が浅いわ。そんな状態で戦うなんて・・・」
「カロリーヌ、大丈夫だ。心配しなくていい。俺は出るよ。カロリーヌのためなら何だってやるって言っただろ?
あっしまっ・・・えっと・・・カロリーヌ様、のために、私は武闘大会に出、ます・・・。」
失敗した・・・もうダメかもしれない。
俺は肩を落として項垂れた。
「ハハハハハ。よいよい。敬語を使い慣れていないのは聞いていて分かる。
それにしても、そうか・・・
カロリーヌのためなら何でもやるか。」
「申し訳ない、です。もっと、勉強します・・・。」
ギリギリ首は繋がったか?
「ベナット、カロリーヌのためなら何でもやると言ったのを聞いたが、嘘偽りは無いな?」
「お父様!」
「カロリーヌ様、大丈夫です。」
俺はカロリーヌを手で制した。
「嘘偽りは無いです。」
「じゃあお前は今日から騎士団に所属しろ。」
「はあ?いえ、はい。分かりました。」
「読み書きは?」
「あまり・・・」
「じゃあ読み書き、マナーを学んでもらう。」
「はい。」
「ダンスも必要か。」
「はぁ?ダンス?あ、何でもない、です。分かりました。学びます。」
ダンス?ダンスなんか何で学ぶんだ?訳が分からん。
雨乞いの時に奉納する踊りとかそういうことか?シュタットにそんな文化あっただろうか?
「じゃあそういうことだ。今日から騎士団の寮に住むといい。」
「はい。ありがとうございます。」
「もう下がっていいぞ」
「はい。」
「ベナット、行きましょう。騎士団まで私が案内するわ。」
「はい。ありがとうございます。」
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