王からの呼び出し
ようやく順番が来て手続きをすると、なぜか周りから拍手された。
そして相変わらず彼女は俺の左腕の上に座っていて、そこが彼女の特等席みたいだ。
「ベナットは格好良くなったわね。
髭を剃った姿は前に見たけど、髪型も服装も似合ってるわ。」
門をくぐると、カロリーヌは俺の耳に顔を寄せて小声で言った。
そうカロリーヌに思ってもらえたら嬉しいと、髪も整えて髭も剃って服も替えて来たが、実際言われると恥ずかしい。
「ふふふ、ベナット耳が赤いわ。」
「・・・。」
誰のせいだと・・・。
「カロリーヌも美しいよ。いつ見ても美しい。俺の女神様。」
俺は仕返しと悪戯心が湧いて、カロリーヌの耳元でそう囁いて頬にキスをした。
カロリーヌは頬を両手で押さえて真っ赤になっている。
「ふふふふふ。お返しだ。」
「もう。ベナット、前はそんな事するような人じゃなかったのに。」
カロリーヌはプゥっと頬を膨らませた。
「カロリーヌが俺をこんな風にした。でも、それも悪くないと、俺は思ってる。
俺はまだお前に相応しい男とは言えない。だけど、カロリーヌに相応しい格好いい男になりたいと思っている。
カロリーヌのためなら何だってやってみせる。
だから、もう少し待っていてくれるか?」
「ベナット・・・。
そんな風に考えてくれていたのね。ちゃんと私との未来を考えてくれていたことが嬉しい。
どうしよう・・・。」
「なんだ?どうした?」
「私はもう、ベナット無しでは生きていけないと思う。」
「カロリーヌ・・・。
俺も同じだ。カロリーヌがいないと生きていけない。カロリーヌは、俺が生涯でたった1人の最愛の女性だ。」
俺は足を止めて、カロリーヌを両腕で包み込むように抱きしめた。
幸せを感じる一方で、やはり自分と彼女の間にある身分の差に、不安を感じずにはいられない。
いつかこの幸せが消えてしまうことがあっても、この幸せな時間を反芻しながらなら生きていける。
今は、この大切な彼女との1分1秒を大切にしたい。
「コホン、お取り込み中のところ申し訳ございませんが、あなたがベナット殿でございますか?」
「え、はい。何でしょうか。」
「陛下がお呼びでございます。王城までお越しいただけますか?」
「はい。今からか?あ、今から、ですか?」
「ええ、今からです。馬車に乗るのは、難しそうですね・・・。その馬で馬車に着いて来て下さい。」
「分かりました。カロリーヌ、様?は馬車に。」
俺はカロリーヌを地面に降ろした。
「お父様がベナットに何の用なの?」
「申し訳ございません王女様、内容までは伺っておりません。」
「そう・・・。」
「俺、あ、いや、私、は旅をして来て、王都に着いたばかりで、服はこのままで問題ない、ですか?」
「大丈夫でしょう。」
「そう、ですか。馬車に着いて行き、ます。」
魔女の婆さんに彼女が位の高い人だと言ったら敬語というのを学べと言われた。
時間がなくて婆さんに教えてもらったのは、自分のことは俺ではなく私、語尾は、です。ます。と付けるということだけ。
カロリーヌに少し話し方を教わってから、カロリーヌの父である国王陛下に、いつか会える機会があったらいいなとは思っていたが、まさかすぐに呼び出されるとは・・・。
もう少し、練習してからが良かった・・・。不安だ。
本当にこの格好で大丈夫か?
マナーなんか分からないから、全てが不安だ。
カロリーヌに近付いたということで罪になったりしないだろうか?
もしや、王城に着いたら投獄されたり・・・。
有り得る・・・。
生きてさえいれば・・・
生きて、いられるんだろうか?
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