べナットの帰国
>その頃のべナットは・・・
かなり遅くなったな。
カロリーヌは待っていてくれるだろうか。
そこで気付く。
待っていてくれと言ったものの、実際に王都に到着しても、カロリーヌに知らせる手段がない。
王城の門番に伝言を頼むか?いや、傭兵の俺の言葉など取り継いでもらえないだろう。
ではどうする?
王城の前からカロリーヌに聞こえるように叫ぶか?いや、不審者として投獄されかねん。
何も思い浮かばんな。
あと少しで王都だと言うのに、俺は困り果てていた。
_ベナットが王都に到着するまであと2日。_
シュタット王国に入り、明日には王都に到着するという所まできた。
カロリーヌは、俺に格好いいと言ってくれた。俺は身なりを整えるため床屋に入り、髭を剃って髪も清潔感が出るように短く整えてもらった。
服装も正装では馬に乗れないから、清潔感のある騎士のような格好に着替えた。
魔女の婆さんに選んでもらったやつだ。
とうとう王都の外壁が視界に入る場所まで来た。
結局、カロリーヌへの連絡手段はいい案が浮かばなかったが、とにかく王都には行こう。
門が見えて、馬を降りて門を通る人の列に並んだ。
「ベナット!!」
カロリーヌの俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。空耳か?辺りを見渡すも、カロリーヌの姿は見当たらない。
「ベナット!」
正門の脇からこちらに駆けてくる女性が1人。
もしや、いやでも、さすがに俺が今日この時間に到着することを知っているわけがない。
でも、近付く影は、俺の愛しい人に見えて仕方ない。それに、愛しい人を見間違うわけもない。
「カロリーヌ、様?」
王都の入り口で王女様の名前を呼び捨ては不味い。
何となく、こちらから向かっていくのも不味い気がして、俺は列に並んだまま彼女が来るのを待った。
「ベナット!会いたかった!」
カロリーヌは走る速度を一切緩めず、俺の直前で地面を蹴ってジャンプし、両手を伸ばして俺の胸に飛び込んできた。
いつかは腹に激突してきたが、腕が回らなかったからな。学習したな、などと考えながら、カロリーヌをしっかり抱き止めると、彼女は俺の首に腕を回して締め上げるかのようにギュッと抱きついてきた。
「待たせたな。」
彼女は首を横にぶんぶん振ると、子供みたいにしゃくり上げながら泣き出した。
「うぅ、ひっく、ベナ、ト、心配、したの。ひっく、どこ、いた?うぅ、怪我、無茶、して、その、服、だって、ひっく、待って、私、怖く、て、ひっく、でも、ベナ、ト、帰って、来た、うぇぇぇぇぇぇん・・・。」
俺が遅かったから心配して、色々聞きたいことがあったんだろう。
泣きながらも一生懸命に伝えようとしている彼女が可愛くて目尻が下がる。
やっぱりもうカロリーヌのことは手放せそうにないと思った。
何でもやろう、彼女のために。俺にできることは何でもやろう。彼女と俺の立場の違いは大きい。
例え望む結果にならなくても、俺が愛する人は、一生でたった1人カロリーヌだけがいい。
俺の腕の中で泣き止まないカロリーヌの背中を、そっと摩り続けた。
ブルルルルル
大きな馬が鼻を鳴らす。
俺はカロリーヌを抱き抱えたまま、手を伸ばして馬のことも撫でてやる。
「お前も彼女との再会が嬉しいんだな。」
ブルルルルブルルルル
馬と話している俺に気づいたらカロリーヌは、俺の左腕に座った状態で馬に手を伸ばして鼻筋を撫でた。
どうやら涙は止まったらしい。
「またベナットの前で泣いちゃった。」
カロリーヌは恥ずかしそうに目を伏せた。
「構わない。俺はカロリーヌのどんな姿でも見たい。笑ってる姿も、怒っている姿も、真剣な姿も、泣いてる姿も、今みたいに照れてる姿も、全部見たい。」
「何それ。ベナットだけズルいわ。ベナットも泣いてよ。」
そんな無茶苦茶な要求をするカロリーヌも愛しい。
「なんでだよ。俺は泣かないぞ。」
「私が死んでも?」
「な!そんな事を言うな。俺が絶対にお前を死なせない。何があっても、俺の命に替えても守る。
だから、俺より先に死ぬな。死ぬなんて言うなよ・・・。」
泣かないと言ったばかりなのに、もう泣きそうだ・・・。
「あら?でもベナットは守られてるような女は好きじゃないんでしょ?」
「あぁ、まぁ・・・
お前は別だ。俺が守りたいと思った唯一・・・」
あぁ、何て恥ずかしい事を口にしてしまったのか、俺は目を逸らした。耳が熱い・・・。
「ベナット・・・私あなたのこと愛しているわ。」
「な、な、なんだ?いきなり・・・。」
突然すぎて、何の心の準備もできていなかった俺は、カロリーヌを落としそうになった。
「ベナットはこの前、愛してるって言ってくれたのに、私は言えなかったから・・・。
だからベナットに会ったら伝えたいと思っていたの。」
「そうか。」
「何よ。反応薄いわね。」
「いや、お前気づいていないのか?
ここ、外壁門の前で、周りに人がいっぱい居るぞ?
なんならちょっと皆さんから、生温かい目で見られているんだが・・・。」
「ッ!!!」
カロリーヌは声にならない声を上げると、俺の腕の中に隠れた。
ハハハハハ
カロリーヌってこんなに可愛いかったかな?
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