カロリーヌ、シュタットへ
べナットを一人置いて、私は宿を出た。
先日あの大きな馬を買った場所まではまだ遠くて、乗合馬車で向かった。
夜には馬を買った店に辿り着き、店主に尋ねると先日ネーベルからヒンメル王国まで乗せてくれた馬は、まだ売れていなかった。
「久しぶりね。またよろしくね。」
あまりヒンメル王国に留まっているのは良くないと思い、そのまま夜駆けして一気にネーベルに入った。
昼間に仮眠をとると、またネーベルを駆ける。
もう一頭の馬も引き取りたかったが、また後日引き取りに来ることを決め、昼間は街道から入って休憩を取り、夜駆けすることを続けてシュタットに入った。
これで、まずは安心ね。
王都の手前の街で宿を取り、公衆浴場にも行って身体を洗い、しっかり睡眠をとった。
そして、王都の門を潜った。
王都の門番は、慌てて城に伝令を出して、私はゆっくり城に向かった。
当然怒られた。しばらくは城から出られないだろう。
剣術の稽古も禁止され、毎日ドレスを着て、王族の在り方について、学ばされている。
日替わりでお母様やお姉様、お兄様やお父様も教師としてやってくる。
毎日説教されているようなものだ。
でも、例えどれ程の叱責を、どれ程の期間受けても、私は後悔しない。
ベナットを救うことができたのだから。べナットのピンチに駆けつけることができたのだから。
むしろ私は自分を誇らしく思う。
そして私が今出来ることは、愛してる、待っていてほしいと言ってくれたベナットを信じて待つだけ。
「ベナット・・・私も愛しているわ。」
しかし、いくら待ってもベナットは現れない。
あれから半月経った。
ゆっくり移動しているとしても、もう到着していてもおかしくない。
やっぱり怪我の具合が悪くて、どこかで倒れているんじゃ・・・
無理して大丈夫な振りをしていたのは知っていたけど、私が思うよりももっとずっと状態は悪かったのかもしれない。
_ベナットが王都に到着するまあと7日。_
「ベナット・・・どこにいるの?」
信じてる。ベナットは絶対に戻ってきてくれる。私が出来ることは、待つことだけ。
と、そこで気付いた。
傭兵の彼が、王都に到着したところで私に知らせる手段がない。
まさか、もう王都に到着しているのでは?
どうやって城を抜け出そうか・・・
まだ文官が登城する前の早朝なら。
早速翌朝のまだ日が登る前に、侍女の格好をして城を抜け出した。
外に出たら平民服に着替えて王都の門へ向かう。
「お疲れ様。最近ベナットは通ってないかしら?」
「ベナット?あのクマみたいに大きなやつか。あいつは戦争に行ったからもう戻ってこないんじゃないか?」
門番に聞いてみたが、見ていないみたい。
やっぱりまだ来ていないの?
不安になりながら、その日は城を抜け出したことがバレないうちに帰った。
_ベナットが王都に到着するまであと5日。_
「カロリーヌ、何か心配事か?父に話してみなさい。なにか役に立てるかもしれないぞ。」
お父様が部屋を訪ねてきた。
「お父様、私、結婚したい人がいます。」
「そうか結婚か・・・は?
待ちなさい。それはどこの貴族だ?あれほど婚約の話を嫌がっていたのに、いつの間に出会ったんだ?」
「ずっと前よ。もう何年も前よ。」
「そうか。で、どこの誰なんだ?」
「ベナットよ。」
お父様は額を抑えて天を仰いだ。
「私が勘違いをしている可能性があるから、念のために聞くが、それはクマのように大きな傭兵の男じゃないよな?」
「ええそうよ。傭兵のベナットよ。」
「私が聞いた話によると、身分が違うとかでカロリーヌが断られたと記憶している。」
「ええ。何度も振られたわ。
こんなところに来たらダメだとか、守られるだけの女に興味はないとか、俺のことはもう気にするなとか、気持ちは嬉しいけど応えることはできないとか、住む世界が違うとも確かに言われたわね。」
「そ、そうか。じゃあなぜその男と結婚をと言い出したんだ?」
「彼は、私のことを愛していると言ってくれたの。待っていてくれって言ってくれたの。」
「はぁ、で、その男はどこにいる?」
「分からないの。」
「はぁ?どこにいるかも分からない?」
私はお父様に、ヒンメル王国とブリーゼ国が戦争している戦地に行ったこと、彼が奇襲を受けて大怪我をしたこと、少し回復して戦地を後にしたが、ヒンメル王国に私がいることが見つかれば外交問題に発展する可能性があるから帰るよう説得されたこと。その時に、待っていて欲しいと言われたこと。
彼が到着しないため心配していると全部話した。
お父様は疲れた顔をして部屋を出て行った。
_ベナットが王都に到着するまであと3日_
お父様に、ベナットが王都に到着していないか門番に確認して欲しいとお願いをした。
そして、その日の午後、来ていないと報告が入る
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