一人残されたべナット
カロリーヌ・・・。
カロリーヌには先に帰って待っていてほしいと言ったが、俺はシュタットに辿り着けそうにない。
すまん。
カロリーヌの手前、だいぶ回復したように見せていたが、とても自力で移動できるような状態ではなかった。
解熱剤が切れれば、身体を切り裂くような痛みが襲ってくるし、かなり血も足りない。
傷口は、ちょっと自分では見れないような状態だ。
一応、最後の悪足掻きで治療院には行ってみるつもりだが、持って数日か、下手したら数時間の命か・・・。
また、泣かせてしまうかな・・・。
俺は宿を出て、馬に寄りかかりながら治療院を探した。
なかなか見つからない。
俺はとうとう、とある家の前で力尽きて倒れた。
「・・・カロリーヌ、ごめん。」
俺は目を開けた。
「とうとう俺は死んだか。見たことのない天井だ。」
「はぁ?」
「え?」
「なんじゃ?気が付いたかと思ったら死んだとか言いおって。」
しゃがれた老婆の声がする。
「ここは?」
「わしの家の馬小屋じゃ。今は馬を飼っておらんから、お主の馬と、お主しかおらん。」
「馬小屋・・・。」
「仕方ないじゃろ。わしの家の前に倒れとったが、わしでは運べん。お主の馬がここまで運んでくれたぞ。」
「そうか。」
「あんたは?」
「わしは魔女じゃよ。」
「魔女?」
俺は勢いよく起きた。
「ぐっ!痛っ・・・。」
「ダメじゃ。まだ傷口が塞がっとらん。」
「俺は、何時間くらい意識を失っていた?」
「10日くらいかの。」
「・・・そんなに。」
「酷い状態じゃったからの。」
「今は・・・」
「わしの薬でだいぶ回復したぞ。」
「それは、ありがとう。感謝する。」
俺は身体が痛みながらも深く頭を下げた。
「ほれ、これを飲みな。」
木のボウルに並々と入った緑色の液体を渡される。
「はい。」
酷い味だが、我慢して全部飲んだ。
「あと1週間もすれば動いても大丈夫じゃろ。」
「本当か?」
「あぁ。わしは優秀じゃからの。」
「もう、俺は死んだと思った。あんた凄いな。」
「お主も凄いぞ。あの状態で生きていたんじゃからな。」
「生きていたか・・・彼女のおかげだ。」
「それなら早く治して会いに行ってやれ。」
「俺が、会いに行っても良いんだろうか・・・」
「訳ありの恋人同士か。若いのう。」
「・・・。」
「生きてさえいれば、大抵のことは大したことじゃない。」
「そうか。ありがとう。」
「ずっと馬小屋じゃ回復も遅くなる。わしの家に来なさい。」
「いいのか?」
「その代わり、わしの言うことをちゃんと聞きなさい。」
「はい。」
魔女の婆さんは、治療以外にも色々世話を焼いてくれた。
訳ありの彼女に会いにいくのに汚い格好はダメだと、正装と、小綺麗な騎士のような服も買わされた。
敬語も少し教えてくれた。
彼女に何か贈り物をしろと言われたが、彼女は位の高い人だから、何でも持っているし安いものはあげられないと言ったら、
自分で作ったと言う、中に虹を閉じ込めたような石をくれた。
なんでも、いつでも好きな時に好きなだけ作れるからタダでいいと。ただし、入手経路は明かしてはいけないと言われた。
大昔、この石のせいで某王家に狙われて逃げたことがあるのだとか。
魔女の技術をタダで貰うわけにはいかないので、俺は金貨を1枚渡した。石の価値が分からないので、こんな金額でいいのか分からなかったが、気持ちだと言って受け取ってもらった。
1週間後、本当に俺は動けるまでに回復して、魔女の婆さんの家を出た。
「婆さん、世話になったな。本当にありがとう。どれだけ感謝しても足りないくらいだ。
治療代はこれで足りるか?」
俺は持っていた金貨を全部差し出した。
30枚くらいか?
あとは銀貨もあるし、また働けばいい。
「こんなには要らん。ちょっと多すぎるが馬の世話代とお主の気持ちも合わせて半分もらっておくよ。」
「全部俺の気持ちだ。受け取ってくれ。」
「ダメじゃ。若いもんが訳ありの恋人を抱えて生きていくんじゃ。手持ちは多いに越したことがない。半分はお主が持っておれ。
年寄りの言うことは聞くものだ。」
婆さんは譲らなくて、結局金貨15枚を渡してお礼を言って魔女の家を出た。
魔女の婆さん、本当にありがとう。いつかまた会える時があれば、その時はカロリーヌを紹介させて欲しい。
カロリーヌが残してくれたこの馬で、ゆっくり行こう。
彼女は、待っていてくれるだろうか?
また彼女に会えるのか・・・
夢みたいだ。
生きてさえいれば、大抵のことは大したことじゃない。
魔女の婆さんの言葉に背中を押されて、俺は馬でゆっくり駆けた。
「シュタット王都まで頼んだぞ、相棒。
カロリーヌに会ったら、名前を付けてもらおうな。」
ブルルルル
10日ほどでシュタットの王都に着くだろうか。
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