撤退 〜カロリーヌ視点〜
そして更に2日経つと、べナットは矢を受けた足を引き摺りながらも、歩けるようになった。
「これなら、ゆっくり馬で移動できそうね。」
「馬か・・・。」
「大丈夫。ベナットが乗れそうなくらい大きな馬を連れてきてるから。
こっちにいるわ。」
「・・・よくこんな大きな馬を見つけたな。」
「そうでしょう?大人しくて優しい子よ。」
翌日、私とべナットは戦地を後にした。
まだ本調子ではないベナットを馬に乗せて、私は手綱を引いて歩いた。
戦地を離れてヒンメル王国内の街で宿を取った。
やはり長時間の移動はベナットには辛いようだ。
「カロリーヌ、お前、城抜け出して来てるだろ?」
「・・・。」
「やっぱりな。他国の戦争に来る許可なんか降りるわけないもんな。」
「ベナットを助けたかったの。迷いは無かったわ。」
「ダメだ。どうか頼む。帰ってくれ。」
「何で?何でそんなことを言うの?迷惑だったの?」
「違う。そうじゃ無い。カロリーヌには感謝しているし、来てくれて嬉しかった。
でも分かってるだろ?このままこの国でカロリーヌが見付かれば、外交問題に発展しかねない。」
「・・・。」
「きっと陛下は心配して探しているはずだ。何も起きないうちに帰るべきだ。」
「べナットも一緒に・・・。」
「ダメだ。俺はまだまともに動けない。置いて帰ってくれ。」
私も分かっていた。戦争が起きているこの国で見付かれば大騒ぎになることは。
見つかるならせめてネーベルで。それならば何とでも言い訳できる。
「心配なの。」
「俺は大丈夫だ。ちゃんと身体を治してシュタットまで行くから。先に行って待っていてほしい。」
ベッドで起き上がって話をしていたベナットが、目眩を起こしてフワッと倒れ込んだ。
「大丈夫?」
「かなり出血したからな。まだ血が足りないだけだ。問題ない。」
そう言うけれど、やはり無理をしているようで青い顔のまま起き上がれないでいる。
「・・・。」
「情けないな・・・。」
「そんなことない。べナットはよくやっているわ。」
「・・・けど、こんなんじゃ、好きな女にキスもできない。」
自分で言って恥ずかしくなって顔を逸らしたベナットが、愛しすぎた。
「ベナット・・・」
私はベナットの両頬を手で包んで、ベナットの口にそっと触れるだけのキスをした。
離れる唇が名残惜しい・・・
べナットの顔からゆっくり離れようとすると、ベナットの大きな手が私の頭を包み、彼の唇に引き戻された。
2度目のキスは、ベナットに食べられているのではないかと錯覚するほどに激しくて、彼の温度を、感触を、脳裏に焼き付けるように、私はただただ夢中でベナットを求めた。
息が・・・。
私は息ができなくて、ベナットの胸を強く叩いた。
「ハァハァハァハァ・・・
息、出来ない。苦しい・・・。」
「すまん。カロリーヌが可愛くて、つい・・・。」
べナットは上半身を起こすと、膝の上に私をヒョイっと横抱きに抱えて、優しく抱きしめてくれた。
ベナットは胸も腕もクマみたいに大きくて、私の身体はすっぽりと包み込まれてしまった。
傷口に塗られた薬草の香りがするその場所は、とても温かくて、これを知ってしまったら、もう彼からは絶対に抜け出せないと思った。
「カロリーヌ、愛してる。シュタットで待っていてくれ。」
「はい。」
彼はそう言うと、私の額にキスをした。
私は持ってきていた薬や救護用品、食料と大きな馬を置いて宿を出た。
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