再会2/2 〜カロリーヌ視点〜

「またあの男に会いに行きたい?

ダメだ。許可はできない。

街の建築現場に行って仕事の邪魔をしたと聞いている。

カロリーヌ、お前はもっと自分が王族だということを自覚した方がいい。」



何度お願いしても全然許可を得ることができなくて、でもどうしてもべナットに会いたくて、私はこっそり城を抜け出すことにした。


今日のべナットの仕事は、前の建築現場ではなく、橋を作る仕事だった。


今回は邪魔をしたくないので、現場から少し離れた場所からべナットの仕事振りを眺めた。



昼休みになると、べナットは私の元に来てくれた。平民の服を着ているのに、気付いてくれた。


「何しに来た?ここは王女様が来るような場所じゃない。」

「べナットに会いに来たの。」

「なぜ俺に会いに来る?目的は何だ?」

目的・・・何だろう?ただ会いたいだけじゃダメなのかしら?


「ただ会いたかっただけよ。べナットの顔が見たかったの。」

「護衛や侍女はどうした?馬車は?」


「だって皆んなべナットに会いにいくのを反対するんだもの。今日はこっそり抜け出してきたから馬車も護衛もいないわ。」

会いたかっただけ。ただ、べナットの顔が見たかっただけ。

いつも、べナットはどうしてるのかなって気になって仕方がない。


「何でそんなことをする?

一国の王女様がこんな何処の馬の骨とも分からないような作業員の男に会いに来るのを賛成するわけがないだろ。」

「でも・・・」


「はぁ、仕事が終わるまで待てるか?」

べナットはため息を吐いた。また、迷惑をかけてしまったのかしら。




グゥー

う、お腹が・・・恥ずかしくて俯いた。


「昼飯、食うか?」

「いいの?」

「ああ。」

べナットは私のために、木陰にいつも腰に巻いている毛皮を敷いてくれた。


べナットがお昼のために買ったサンドイッチを1つを渡してくれた。

毒味どうしよう・・・食べてもいいかな?



「毒味か・・・。」

「・・・。」

気付いてくれた。


「一口端を食べるぞ?」

「はい。」

べナットは私が持っていたサンドイッチの端を一口齧った。


「問題ない。」

べナットが口を付けたサンドイッチだと思うと、途端に恥ずかしくなって、一口一口噛み締めながらゆっくり食べた。



べナットの仕事が終わると、私たちは2人で並んで歩いた。

クマのように大きなべナットは、私よりもとても脚が長くて、一歩も大きいのに、私に合わせてゆっくり歩いてくれた。


「もう勝手に城を抜け出すなよ。皆んなが心配するし、色んな人に迷惑がかかる。

それに自衛手段を持たない若い女は狙われやすい。お前も襲われたり攫われたりはしたくないだろ?」

きっと城に帰ってからも怒られるのに、べナットにも注意されてしまった。

まるで我儘な子供を諭すように。


「大丈夫。その時はべナットが颯爽と現れて助けてくれるんでしょ?」

そうであって欲しい。いつも助けてくれるのは他の誰でもなく、べナットであってほしい。


「いやお前、俺を何だと思ってるんだ?俺はお前の護衛じゃないし、この前助けられたのはたまたまだ。

いつでも助けに行けるわけじゃない。」

「そう。じゃあずっと一緒にいればいいわ。結婚するのはどう?」

子供扱いも嫌だけど、突き放さないで欲しい。私を1人の女性として見てくれたらいいのに。


「はあ?何言ってるんだ?俺は戦争のプロ。傭兵なの!

それに人に守られているような女はごめんだね。」


「・・・。」

人に守られているような女。

弱いままじゃ、今のままじゃ、べナットの横には立てないってことね・・・。



そうして歩いていると、王城の門に着いてしまった。やけに早く感じた。


「もうここまで来たら大丈夫だろ。

じゃあな。

くれぐれも、もう城を抜け出すなよ。」

そう言って彼はさっさと後ろを向いて行ってしまった。


待って!ってまだ今は言えない。

堂々と、彼の隣に立てる強い女性になりたい。





ーーーーーーーーーーーーーーーー


>>王城では


「城を抜け出してまであの男に会いに行ったと聞いたから心配したが、ようやくカロリーヌも目が覚めたようだな。」

「そうですね。最近は各国の情勢や文化の勉強も始めたようです。

そしてなぜか、護衛騎士に護身術を習い始めたとか。」

「そうか。まあいい。落ち着きがないのは今に始まった事ではないし、体を動かして発散できているのならば好きにさせておきなさい。」

「かしこまりました。」


陛下は知らない。カロリーヌ王女が何のために護身術を習い、各国の情勢を熱心に勉強しているのか。

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