第18話 石上広高宮(1)

 ところで、『白香しらかひめの冒険』で姫が住んでいる石上いそのかみの広高ひろたかのみやはどこにあったのか、ということで。

 書き始めたとき、私は現在の石上神宮よりは南を想定していました。

 根拠はあまりないのですけど。

 飛鳥とか、泊瀬はつせとか、三輪みわ山とか、それまでの王権の中心地に近いのは石上神宮より南側なので、そちらだろう、という考えです。

 さて、Google Mapに古代の天皇の称号を入力すると、その天皇の宮跡が候補地として出て来ます。

 これを使って検索したところ、石上広高宮の伝承地は石上神宮より北側、ということがわかりました。

 だいたい、石上神宮の場所は現在は石上町ではなく、布留ふる町です。

 布留町の「布留」は、石上神宮の祭神のうち一柱「布留ふるの御魂みたま大神のおおかみ」の名でもありますし、ここを流れる川の名でもあります。

 大和平野には、東側の山地から多くの川が流れ下っています。布留川はそのうちの一本ですね。

 『手白香姫の冒険』のうめちゃん(架空の人物です)は石上神宮と姫のいる宮をよく往来している、ということです。身体能力は高いということですので、この川を跳んで渡ったりしてたんだろうな、などと想像しつつ、布留川の北側を下っていきます。

 現在の地名がそのまま古代から続いているかどうかはわかりませんが、「石上」というのは、現在の石上神宮から北側に広がっていた地名のようです。

 また、石上神宮の北、「やまの道」沿いには、石上・豊田古墳群という古墳群があります。ここが物部もののべ氏の首長墓だとされているそうです。

 石上は物部氏の根拠地ですから、石上の中心地は、やっぱり石上神宮の北側ということのようです。

 というわけで、石上神宮から北へと向かいます。地図を見ると山伝いに行く道もあり、そちらを通ればその石上・豊田古墳群を通過するのですが、迷うと困るので、いちど、天理市街に近いところまで下ることにしました。

 石上神宮から坂を下りたところに厳島いつくしま神社があり、ここは、古今集の家人である小野おのの小町こまち僧正そうじょう遍昭へんじょうの伝説の地だということです。

 石上神宮から下りて奈良市方面へと歩くのですが、なかなか到着しません。

 そのうち、大和平野(奈良盆地)から東へと続く名阪自動車道の高架が見えてきました。

 そこまで行くと行きすぎ、というのはわかっていたので、その手前で曲がります。

 その道路沿いは住宅地で、明らかに住民の生活道路なんですけど。

 もしどこかのお家に着いてそこで行き止まりになっていたらどうしよう、と思いながら進んで行くと、その住宅地が終わり、道が急な坂道になっているところに出ました。

 鳥居が立っています。

 道をまちがえたとしても、どこかの神社に参拝することにはなるんだ、と思って、その坂道を上っていきました。昼なお暗い竹藪たけやぶと森のなかの道を進むと、その森が少し切り開かれたところがあります。

 そこに姫丸ひめまる稲荷いなりだい明神みょうじんという神社がありました。

 「お稲荷さん」なのですが。

 そのお稲荷さんの入り口に「石上広高宮」の石碑が建っていました。

 うーん……。

 ここなのか。

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