第13話 西山塚古墳

 ところで、私は道に迷いやすいひとです。

 スマートフォンの地図を見ていても同じ場所をぐるぐる回って「いつまで経っても目的地に着かない」と困り果てる、ということがあります。

 それで、道に迷いやすい人物がお話に登場したりするのですが。

https://kakuyomu.jp/works/16817330654189567317

 今回も、ほんとうに西山にしやまづか古墳と西にし殿塚とのづか古墳を探り当てられるのか、もしかするとぜんぜん別のところを目指して歩いていないか、と、不安を抱きながら、大和おおやまと神社から「やまの道」のほうへと坂を上がって行きます。

 「山の辺の道」は大和平野からは少し高いところを通っている道です。だから、山の辺の道に出るためには、そちらに向かって坂を上がることになります。

 山の辺の道は観光ルートですけど、基本的にはそこに住んでいるひとたちの生活道路です。道の両側に家が集まっているところがあり、そうでないところは畑が広がっていたりします。狭い道ですが、車もときどき通ります。バス通りも電車の線路も下の平野を通っていますから、ここに住まう人たちにとって、自動車の必要度は高いと思います。

 大和神社から坂を登っていくと、そういう家の集まっている場所の背後、山並みよりも近い場所に、大きな森が横たわって見えるのが印象的でした。

 印象的、というか、威圧的、というか。

 家並みの並んでいるところまで坂を上がります。ここが山の辺の道のようです。

 その角のところに、池がありました。

 治水の発達した地域ですから、坂を上がったところに池があってもおかしくないのですが。

 あれ?

 その池の向こうが円い形で、おわんせたような形に盛り上がっています。

 手前も少し高くて、小さな丘のようになっています。

 場所としては果樹かじゅ畑か何かのようで、明らかに「個人の畑」なのですが。

 これは古墳で、前方ぜんぽう後円こうえん墳ではないか?

 そう思って行くと、池の手前に解説版があり、そこに「西山塚古墳」と書いてありました。

 目的地到達です。

 しかも、解説版には、ここが白香しらかひめ(手白香皇女)の真のみささぎであるらしいことや、この附近の古墳とは築造のプランが違うこと、築造時期も異なることなどまで説明してあります。

 親切だ。

 前に山の辺の道を歩いたときにはこういう解説版はなく、古墳の名まえもわからず、

「あ、なんか古墳みたいだなぁ」

だけで通り過ぎていたのですが。

 今回は学術的にもかなり詳しい内容の解説版があちこちに設置されていました。

 たいへんよいことだと思います。

 西山塚古墳は、もちろん個人のお墓としては大きいですが、圧倒されるサイズの大古墳ではありません。

 ここの、いまは畑になっている、盛り上がった「後円部」に、私がいま書いているお話のヒロインが埋葬されているんだなぁ。

 ……などと思いにふけっているとネコの鳴き声がします。

 その古墳の「前方部」でネコが鳴いている。そのネコは、前方部の手前にある家の向こうに姿を消したのですが、まだネコの鳴き声がします。

 見ていると、さっきのネコが鳴いていたところに、もう一匹、ネコが現れて、さっきのネコの後を追うように家の向こうに行きました。

 和むー!

 『岩合いわごう光昭みつあきの世界ネコ歩き』的な情景です。

 厳重に管理されて厳粛な雰囲気を保っているお墓もいいですけど、上で現在のひとが農作業をして、近くでネコが遊んでいるお墓、というあり方もいいよね、と思いながら、私は西山塚古墳を通り過ぎました。

 ちゃんと姫にごあいさつできたかどうかはわかりませんが、とりあえずみささぎへのお参りは果たしました。

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