第42話

 ダンジョン16階層。

 

「ニャー」


「ニャー、ニャー」


「にゃーん」

 

 そこには大量の猫がいて、タマもその集団に交じって鳴き声を上げ合っている。

 ……どういうこと?

 僕が目の前の光景に戸惑っていると、急に猫たちの視線が僕の方へと向けられる。


「にゃー!」


「にゃーにゃーにゃー!」


「にゃんにゃにゃー」


「ニャー!」

 

「ニャー」


「ニャー、ニャー」


「にゃーん」

 

 そして、猫が一斉に僕に向かって鳴き声を上げる。


「え、えっと……?」

 

 そんな熱心に猫の鳴き声を上げられても僕は困惑することしか出来ない……すっごい知性を感じるんだけど、何?これ。


「あー、そうか。人間相手なんやからあてらの言語はわからへんか。あんさんの言語は日本語やんな?あての言葉、ちゃんと日本語になっているかいな?」


「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

 突然、随分と流暢な日本語を話しだした猫を前に僕は悲鳴を上げる。


「あー、さよか。さよか」


「だから翔琉くんはこんなにも困惑していたのね」


「盲点だったわね」


「人間と接するのなんて久しぶり過ぎて忘れてたわ」


「確か最後はバステトがエジプトに行ったときだったかしら?」


「確かにおいはエジプトに言ってちょっと人間の手助けをしてやったな。みんな可愛いものだったよ」


「いや……もうちょい会いに行ってないか?」


「どうだったかしら……?忘れたわね」


「うちはバステトよりも後にここ日本で人間に接したことがあったわよ?確か彦火火出見と接触して、お手伝いをした記憶があるわ……バステトと違ってうちはあの子としか会ってないし、あの子も一族だけに語り継ぐ秘密にしたみたいで後世にうちが神として讃えられることはなかったけど」


「それってバステトとよりも後か?」


「……どうだったかしら?でも、百年、千年くらい誤差でしょ?」


「まぁ、それもそうか」

 

 猫の姿のまま日本語で会話しだす猫たちを前に僕はただただ困惑する。


「まちぃな。あてらの目的は翔琉くんや。どうでもええ昔話なんていらんねん」


「おいは今でもエジプトで信仰されてんだよ?おいの話をどうでもいいとか言ったらあいつらの子孫が怒ってくれるや」


「うっさいわ!今は関係あらへんやんか!翔琉くんを見てみぃ!これ以上ないくらい困惑しちまっているやんか!」


 猫たちがやいのやいの言いながら戯れている……日本語で。


「ご主人様。吾輩の同胞たちが喧しくてごめんや」


「あっ、うん」

 

 さも当たり前のように僕の肩に乗り、日本語を話し出したタマに僕はもう頷くことしかできなかった。

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