第3話 「最強の英雄」

「12万の敵兵を全滅……? 王国最強の英雄……?」


 あまりの認識の違いに、ステラの言葉を小声で反芻するイオン。


(『12万の敵兵』っていうのは、俺が最後に戦った敵の数だよな…… それを全滅っていうのはどういうことだ? 俺はその時に死んだはず……)


 確かにあの時の敵兵の数は、軽く10万を超えていた。それに向って一人で特攻したのは事実である。


(いやいやいや!! これって完全に人違いだよね⁉ だって俺、あの時死んだもん!! 誰一人として倒してないし!!)


 すぐに誤解だと反論したいイオンだったが、こちらに向けられたステラや貴族達の目は、強い敬意と崇拝なる思いが含まており、非常に否定しずらい。

……

「た、確かに、そのイオン・ラオーズとは俺のことだな……!!」

「「「おおぉぉぉ!!」」」


 ステラの話を肯定してしまうイオン。その瞬間に、部屋全体が感嘆の声で包まれる。


(そんな目で見られたら、「人違いでした」なんて否定できないよ……!!)


 心の中で涙を浮かべながらも、何とか演技で乗り越えようとするイオン。


「そ、それで、君達は俺の力に頼りたくて、こうして俺を蘇らせたという事で良いのかな?」

「はい。仰る通りです。どうか帝国の復活に、もう一度イオン様のお力をお貸しください……!!」


 もう一度深々と頭を下げて懇願するステラ達。正直な話、王国に裏切られたのがついさっきの様に感じるイオンにとっては、あまり好ましくはない話だった。


(まあでも、ここが1000年後の世界なら、彼女らは全くの無関係な人だし…… それに真相についても気になる)

……

「……わかった。出来る限り協力しよう」

「「「うおおおぉぉぉーーー!!!」」」


 イオンが承諾した瞬間。ステラ以外の貴族達は舞い上がり、歓喜の声で喜んだ。


(一回死んでも、やっぱりこういう性格は治らないんだよな……)


 昔から気が弱くて断り下手なイオンは、こういう頼み事にはめっぽう弱いのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る