第1話 「蘇生」

 真っ暗な視界から、日差しが差し込むようにイオンは目を覚ます。全身の感覚もまだハッキリしない。


(ここは……)


 ぼんやりと視界が開けて、段々と意識がハッキリしてくる。どうやら俺は仰向けで横になっているようだった。

 俺は体を起こす。

 広い空間。高い天井に、派手で大きなシャンデリアが部屋全体を輝かせる。床には綺麗なレッドカーペットが敷かれ、その先には、高価な衣装に身を包んだ貴族らしき人達が、列を作りながら自分に向って跪いていた。


「『英雄イオン・ラオーズ様』 こうして現世に舞い戻って頂き、誠にありがとうございます」


 貴族の列の先頭にいた女性が話しかける。真っ白なロングドレスに華やかなアクセサリー。気品のある服装とは裏腹に、顔立ちはまだ幼そうな印象。


「君は……?」

「申し遅れました。わたくし、アリゴス帝国皇女『アリゴス・ステラ』と言います。 『ステラ』とお呼びください」

……

(アリゴス帝国? 皇女って国王の娘ってことだよな……? なんでそんな身分の人が、俺なんかに頭下げてるんだ?)


イオンは『英雄』と呼称されていても、所詮『最弱の軍隊長』。隊長に成り立ての時は、国王とお話する機会もあったが、ここ最近では、顔を合わす機会も徐々に減っていた。


(そういえば、英雄も参加する王国会議も、知らないうちに行われていて、後から人づてに報告されていたな……)


 よくよく考えれば、裏切られる予兆は幾らでもあったのかもしれない。


(って、そうだ!! 俺は王国に裏切られて死んだはず!!)


 徐々に記憶が蘇ってくる。王国に裏切られた俺は、味方を逃がすために自ら死を選んだ。その出来事がほんの数分の前の事かのように感じる。


(王国はどうなった!? アリア達は無事なのか⁉)


 自らが命を懸けてまで稼いだ『逃げる為の時間』を、彼女達は命令通りに逃げることが出来ただろうか……?

 仮に逃げ切られたとしても、イーグルネストを裏切った王国内に、自分達の居場所なんてないはず。

 疑問が尽きないイオン。そんな彼の心情を、ステラを名乗る女性の次の言葉で、更に乱してしまう。


「イオン様が、長き眠りに就いてから約1000年。お目覚めのところ大変恐縮なのですが、この堕落して腐敗しきった『アリゴス帝国』をどうか救って頂きたいのです」



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