第七話 鬼のいぬ間に

「あ……、くすぐったいってぇ……」

「いいだろ、これぐらい……」

「ひとが、いるのにぃ……」

「悪かったな、いて」

 『ひと』の俺が、ふたりにツッコミを入れた。

 相手は、るりちゃんと翔太である。

 このふたりは、なんのきっかけがあったのかは知らないが、最近付き合い始めたらしかった。

 ちなみに今現在の場所は、あいも変わらず俺の部屋である。したがって、俺がいてもなにもおかしくはない。

 ……はずなのだが。

「あ、ひゃんっ」

「声、もっと出せよ……」

「お前らよそでやれよ……」

 俺はあきれ気味に言った。色々困る。

「いいじゃないですか。ラブコメの資料になりますし」

「お前らが資料になるのはもっと別のなにかだよ!」

 多分、年齢制限が付く。

 それに、俺が今書いているのは、異世界転生ものである。

 ……仕方ない。

 俺はふたりを部屋(自分の)に残して、ひさしぶりに喫茶店に向かった。

 千春がいた。自分のフリゲをバカにされて以来、千春は俺の部屋に来ていなかった。

 俺は黙って隣に座った。ちなみにこの店は出禁になっていない。奇跡だと思う。

「……邪魔なんだけど」

「謝りたいんだ。このあいだは悪かったな」

「……いいよ。自分でも趣味が悪いのわかってるし」

 千春はゲーム機を置いて、アイスコーヒーをストローでズゴゴ、と吸った。

「……あたしさ、将来ゲームクリエイターになりたいんだ」

「いいんじゃないか。ゲーム好きだし」

「でも、親にめちゃくちゃ反対されてて……。あたしはこんなだけど、親はめちゃくちゃ立派な人たちでさ、言ってることが正しいことも、わかって……」

 千春の声がだんだん震えてくる。

「……外で、こうやってゲームするしかないんだ……」

 千春の目から、涙があふれ出す。

 ポロポロとこぼれた雫は、大事なゲーム機の画面に落ちる。

「……壊れるぞ。もうあと2台だろ」

「……よく覚えてるね。キショ」

「お前、居場所欲しいなら、俺の部屋来いよ。うちでゲーム作れば?」

「……いいの?」

 千春が涙目で俺を見つめる。その目はどこまでも澄んでいて、吸い込まれそうだった。

 どうでもいいけどヘッドホンしたままでよく聞こえるな……。

「いいに決まってるだろ。ゲーム機代まだ弁償してないし」

 俺がそう言うと、千春は

「それはもういいよ」

 と泣き笑いの表情を見せたのだった。

 

 俺が千春と別れて家に戻り、

 るりちゃんがメイドのコスプレをして、翔太とイチャついていたのを見つけてふたりを部屋から追い出したのが、

 今回の話のオチである。



(続く)

 

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