第五話 比率の反転

「陰キャな女子の秘密を知った主人公が付き合う話」

「ボツ」

「……俺様系主人公がハーレムの中で女の子をとっかえひっかえする話」

「ボツ」

「…………家庭教師のバイトで教え子の母親と」

「変態」

「全部聞いてから言えよ」

「んなもん聞きたくもねえわ」

 季節は夏。セミの声が俺の部屋の中まで響いていた。

 エアコンを(千春が)極限まで効かせた部屋の中は快適そのものだった。あとでおふくろが電気代を見て卒倒しなけばいいが。

 そんな真夏のオアシスで、千春は俺の新しい作品のアイデアを次々と斬って捨てていた。

 チョイエロラブコメは時代遅れだから、新作を書け、とのことだった。さよなら、俺の努力の結晶。

 なぜかるりちゃんも一緒に来た。

「見張りです」

 とのことである。意味がわからなかった。

「あ、ゲームの時間だ」

 と、千春がいつも通り、時間になったとたんゲームで遊び始めた。コイツからゲームを奪ったら激太りするかもしれない。

「…………」

 千春がゲームに集中し始めたことにより、るりちゃんと少し気まずい空気になり始める。今でも、女子高生とはなにを話せばいいのかわからない。

「るりちゃんは、なんかいいラノベのアイデアある?」

 するとるりちゃんはあごに指を当て、斜め上を見て、

「そうですね……。幼なじみが実はコスプレ好きだったとか、義理の妹に裸エプロンをさせてみた話ですとか、クラスの陽キャ女子と主人公が●●プレイする話ですとか、友情から一線を超えた男性同士の熱い話ですとか、夏樹さんとお兄ちゃんをモデルにした」

「わかったもういい」

 なんでですか、とほおをふくらませるるりちゃん。

 こんなに見た目はかわいいのに……。

 俺はなんだか泣けてきた。

 と、大きな音がした。

「……外か?」

「見に行きましょう、夏樹さん!」

「お、おう……」


 家の外に出て、俺の部屋の下に行くと。


 制服姿の少年が倒れていた。


「加藤くん!?」

「知ってるのか?」

「クラスメイトです……! 加藤くん、しっかりして!」

 俺は、加藤が倒れていた場所のすぐ近くに生えている木を見上げた。どうやら、この木から、足を滑らせたらしかった。

「登ったら結構高いぞ、ここ……」

 なんで登ったんだろうか。のぞきか?

 最近の視線の正体がわかった気がした。

「夏樹さん! なにボーッとしてるんですか! とりあえず家の中に連れて行ったほうがいいですよ!」

「あ、ああ……。そうだな」

「すいません……」

 なんとか意識はあるらしい加藤。俺は仕方なく加藤に肩を貸し、なんとか家の俺の部屋まで連れて行った。

 るりちゃんが、妙にキラキラした目で見ていた気がするのは、気のせいだろう。千春はこの間、ずっと俺の部屋でゲームしていた。


「誰かと思えば翔太じゃん」

 『ゲームの時間』を終え、千春はコーラ(俺の家の冷蔵庫から出した)を飲みながら、言った。

「クラスメイトらしいな」

「はあ? それ以上にるりのストーカーだから」

「マジか」

「……ストーカーじゃない」

 擦り傷等をばんそうこうで応急処置した翔太が、小さくも力強い声で反論した。

「じゃあなんだよ」

 千春がめんどくさそうに聞く。

「愛の、戦士だ……!!」

「そっちの方がヤバくね」

 千春が一刀両断した。

「頭、打ってないよな?」

「大丈夫です!」

「発言が大丈夫じゃないんだが……」

「こういう人なんです」

 と、るりちゃん。疲れた顔をしていた。

「くっつけば?」

 と俺は提案した。るりちゃん、そっち方面の欲がすごいし。

「ふざけんな」

 頭に衝撃が来た。痛え。千春がゲーム機で俺の頭を叩いたのである。

「お前のせいで3台目が壊れたじゃねえか」

「それは100パーお前が悪いだろ……!!」

 あと2台あるくせに、と心の中で付け加える。

「るりの兄貴にチクるぞ」

 俺の頭の中で、一瞬真に尋問を受ける自分のイメージが浮かんだ。これは100パーるりちゃんの影響。

「……千春様ごめんなさい」

 俺は震えながら土下座したのだった。



(続く)

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