第三話 美少女のドジは尊い

 俺は目を疑った。それほどの、美少女だった。

 黒く長い髪はまるで濡れているようにツヤを放っている。

 小さなかんばせはまるで西洋人形のように整っていた。

 しかし笑みを浮かべれば百人中九十九人が恋に落ちそうなその顔を、彼女は今は眉を釣り上げ怒りに歪めていた。

「もう! なんで、学校に来ないんですか、水上さん!」

「うるさいなあ、ほっといてよ」

 美少女に腕を捕まれ、ゲーマー少女は、心底面倒くさそうにしていた。水上、がアイツの名字らしい。

「駄目です! 学級委員の威信にかけて、この井上るり、あなたを学校に連れていきます!」

 ……いちいち芝居がかった言葉使いをする子である。しかしそのおかげで、彼女の名前がわかった。るりちゃんというらしい。彼女は性格はアレらしいが、俺の中でアイドル枠になろうとしていた。

「ウザい! ふざけんな!」

 とうとう水上がキレ、るりちゃんを突き飛ばした。

「きゃあ!」

 細い体でるりちゃんは倒れるのはなんとか耐えた、がーー。

「あー!!」

「え? あ、きゃあ!」

 デジャヴを覚えた。

 そこには、るりちゃんがなんとか体を支えるために、テーブルに手をついた拍子に、こぼしたコーヒーにまみれた水上のゲーム機(2台目)が。

「お前、なんてことしてくれてんだよ!」

 ヤンキーもドン引きのドスの効いた声で怒る水上だが、俺は

 (あと3台あるだろ)

 と心の中でツッコんでおいた。

「はあ!? 元はと言えば、あなたが学校に来ないのがーー!!」

 と、るりちゃんが応戦の構えを見せたが。

「あんたらいい加減にしろよ!!」

 と、ふたり以上にガチギレしていた店員に、俺たち3人は仲良く追い出されたのだった。


  ○


「にいちゃん、コーラおかわり」

「あ、おにいさん、それなら私も……」

 ココ、オレノヘヤ。

 ジェイケー、フタリ。

 はっ!

 あまりの緊急事態に、頭がショートしていた。

 水上は、さっき言っていた通り、俺の家に来た。そこまでも理解したくなかったのだが、なぜかるりちゃんも一緒についてきた。途中、視線を感じたが、多分気のせいだろう。

 おふくろは、女子高生の突然の来客に驚いていたが、「勉強を教える」という俺の適当な言い訳を、真に受けたようだった。客がふたりというのもあったらしい。

 しかし……。女子高生かあ……。なに話せばいいんだ?

「なに、アンタ、緊張してんの? キモいんだけど」

 と水上。

「確かに、少し見苦しいかと……。あ、グラビア雑誌の隠し場所、教えていただけますか?」

 と、なぜかバカ丁寧に人のトップシークレットを聞き出そうとする、るりちゃん。緊張のせいだと思いたい。

「ばっか、るり、そんな聞き方で、コイツが大人しく教えるわけないだろ。ひと肌脱げ」

「ええっ! 水上さん、そうなんですか!? し、しょうがないですね、じゃあ……」

 と、なぜかるりちゃんは、スカートのすそを少しずつ上に上げようとする。

 ……あ、この子、素でアレだ……。

「ストップ。まずは3人で自己紹介をしよう」

「あ、はい! 井上るりです!」

「うん。よろしく、るりちゃん」

 にっこり微笑む俺。

「水上千春。以上」

「うん。よろしく」

 心の中では親指を下に下げる俺。

「……なんかアンタ、あたしとるりの扱い違くない?」

「キノセイダヨ。俺は伊藤夏樹だ。よろしく」

「よろしくお願いいたします」

 と頭を下げるるりちゃん。うむ、かわいい。

「よろ」

 と親指を下げる千春。うむ、殴りたい。

 ていうか、エスパーかな?


 こうして。

 俺たちの、騒がしい青春の1ページは、幕を開けたのだったーー。



(続く)

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