第二話 ゲームは1日1時間、なんて誰が決めた?

「あの……」

 俺は、目の前の光景が理解できずに、少女に声をかけた。

「なに?」

 少女は、ゲーム機(2台目)から目を離さずに、俺の呼びかけに答えた。

「そのゲーム機は……?」

 ああ、と少女は俺の疑問をやっと理解したらしく、

「あたし、このゲーム機5台持ってるから」

 と、とんでもないことをサラリと言った。

 1台はアンタがさっき壊したけど、と少女は前置きしてから、

「もちろんセーブデータは同期してるし、ヘッドホンはワイヤレスでも使えるように改造してある」

 俺たちのケンカの一部始終を見ていた野次馬の中から、

「欲しい……」

 と小声が聞こえた気がした。気のせいだと思いたい。

 ていうか、改造ってしたらだめなんじゃなかったか。

 とにかく、コイツがゲーマーの中でも特にヤバい種類のヤツであることはわかった。

 同じゲーム機5台持つなんて、どこのお嬢様だ。

 とりあえず俺は、ゲーマー少女がゲームに気を取られているうちに、逃げようとした。こんなやばいヤツとは二度と関わりたくない。

 しかし、少女は素早く俺の前に立ちふさがり、退路を断った。

「どこに行くつもり?」

「……学校です」

「言い訳が苦しいのよ。さっきのゲーム機、弁償しなさい」

「そんなカネはない」

「だったらサラ金にでも借りて返して」

「人の人生を簡単に闇に堕とそうとするな!」

「人のゲーム機壊したのが悪いんでしょ!」

「わかったよ!」

 俺はヤケになって叫んだ。

「俺が書いたラノベが賞を取ったらそのカネ、お前にやるよ!!」

 あたりが、シン……、と静まりかえった気がした。

 俺は、公衆の面前で自分がワナビーー、作家志望者なのを暴露したことに気づいて、どこかに隠れたくなった。

 しかし、少女は、笑うことなく……。

「その話、乗った」

 と、大真面目に言ったのだった。

「家に案内しなさい」

「なんでだよ」

 いきなり俺が女子高生を連れてきたら、おふくろはどう思うだろうか、と考えた。

 卒倒するに違いない。

「一緒にどんなラノベ書くか考えてあげようとしてんの! 感謝しなさい」

 勝手にまだ書いてないなんて決めつけるな、と少女に向かって言おうとしてーー、俺は、口をつぐんだ。

「いい加減、学校に来てください、水上さん!」

 と、黒髪ロングの美少女が、ゲーマー少女にすがりついていたからだった。



(続く)

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