109.幸せはどこまでも(最終話)
嫁いで十年が経ちました。虹色の瞳を受け継いだ娘は、このところ刺繍に夢中です。私は苦手でしたが、アストリッドの腕前は誰に似たのかしら。
お父様やお母様は、領地に新しい屋敷を建てて住んでいます。領主館に住むと、あれこれ相談を持ち込まれるのだとか。隠居したと示すため、住居を別にしたのですね。本家の執事が引退し、お父様達に同行しました。代替わりした執事は、お兄様と相性がいいようで。エールヴァール公爵家の噂は、時々辺境まで届きます。
お義姉様は、跡取り息子のエドガーに続いて、次男コンラードを生みました。お腹にまた一人いるそうですが、女の子を期待しているそうです。お兄様の希望ですね、わかります。
ちなみに私は、次の妖精姫アストリッドの三年後に、息子を授かりました。ローランドと名付けられた息子は、素振りの真っ最中です。竜殺しの称号を持つ父に続け、と剣の道に進みました。最近は腕に筋肉もついて、力自慢をしています。六歳でも男の子ですね。
義父母が育児を手伝ってくれるので、私は社交に専念しました。アレクシス様と一緒に夜会に参加することで、王都の貴族に新しい流行を広めます。国庫から辺境伯家への経費が支払われるようになり、砦周辺は急速に発展しました。
管理が追いつかないほどの繁栄は、レードルンド辺境伯家だけではなく。他の辺境伯家からも嬉しい悲鳴が上がりました。危険で寂れた街、そんなイメージが払拭されたのでしょう。
二人同時に妖精姫が誕生したことで、国は豊作が続いております。他国で起きた飢饉へ無償で食糧の貸付を行い、恩を売ることにも成功しました。食糧庫として、我が国を守る周辺国が増えています。
「君が俺を選んでくれてよかった、ヴィー」
「あら。まだ先は長いのに、明日世界が終わるような言葉ですね。アレクシス様」
砦の監視用の塔は、急な階段を頑張れば、視界が開けています。時々、景色を見るために登りますが、いつも息が切れて大変でした。それでも、幸せな風景を見たくて登っています。
眼下に色とりどりの屋根が並び、砦を中心に放射状の大通り。人々が行き交う賑やかな様子が、見て取れました。
「そうだな、いつ終わっても悔いは……ある。心配で、君を置いて死ねないさ」
「妖精王様に頼んで、同時に息絶えるよう……」
『ロヴィーサ、君は私達を何だと思っていんだい? 神ではないのだよ』
無理だと声が届けられて、ぺろっと舌をだして戯けたあとで笑う。国境の縁に、民を守る形で築いた砦は、いつの間にか街の中心になっていました。移住する人が増えて、丸く街が広がっています。危険だからと話しても、彼らは笑ってこう答えました。
「妖精姫様と竜殺しの英雄様の領地だ。危険なんざ、逃げていくさ」
本当にそうなったら最高ですね。
隣に立つ夫を見上げ、頬から首にかけて残る大きな傷痕に指を這わせました。目が無事でよかったし、傷が日常生活に支障あるほど深くなくて安心したのは、アレクシス様が目覚めてからでしたわ。傷の痛みと発熱に魘されるあなたを看護して、責めない優しさに泣いた夜。
王宮の謁見の広間で公開プロポースをして、言いがかりをつける殿方を退治した。でも一番記憶に残っているのは、攫われた私を助けたあなたの表情です。ほっとして泣きそうに潤んだ瞳と、心配そうに寄せられた眉。どれほど嬉しかったか。
「愛しています、アレクシス様」
「俺もだ、ヴィー。もう一人くらい、作らないか?」
「あらあら。ふふっ、いいですよ」
神の鳥はまだ運んでくれるかしら? 熱いキスを交わしながら、私は心でそう問いかけました。
答えは来年かと思いきや、意外と早く齎されます。双子を宿したと知り慌てふためくのは、数ヶ月後でした。
もっともっと幸せになりましょうね。あなたは私が望んだ大切な夫なのですから。誰かが顔の傷を怖がって泣いても、胸を張って! 妖精姫が切望した、最高の旦那様にキスを――。
終わり
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本編完結です。お付き合いありがとうございました。明日、少し外伝を加えたいと思います_( _*´ ꒳ `*)_読んでくれた全ての方に感謝を!
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