59.どうやら盗み目的のようです

 捕まった方、メランダル男爵家の次男でした。つまり、アレクシス様のすぐ上のお兄様ですね。ついでに長男も一緒に捕まりました。塀の外に逃走用の馬車を待たせていたのですが、レードルンド辺境伯家の騎士に拘束されています。御者はメランダル男爵家の執事でした。


 どうやら金目の物を持ち出そうとしていたようですね。


「貴様が困窮する実家に金を送らないのが悪い」


「そうだ! 醜い化け物の分際で、偉そうに嫁を貰うだと!?」


 驚きましたわ。アレクシス様を見るなり、悪態を吐くんですもの。聞くに耐えない醜い言葉を吐き出す男達に、私は目を丸くし……思わず攻撃してしまいました。


「お黙りなさい! えいっ!」


 一応警告はしましたのよ。黙りなさいと命じた側から口を開こうとしたので、妖精達に悪戯してもらいました。口をぴたりと閉じたのですが、その口の中に綿を詰め込んだのです。


 え? 順番が違うようですね。妖精達の話では綿が湧き出る魔法を掛けてから、口を塞いだそうですわ。鼻からも綿が出てますけど、息はしているので問題ありません。


「ヴィー、これは君の仕業か?」


「いいえ。妖精さんの悪戯ですわ」


 嘘は言っておりません。私がお願いしただけで、妖精達が実行したのは事実ですもの。それを見透かしたように溜め息を吐いたアレクシス様。私は彼の腕に頬を寄せ、笑顔で誤魔化す作戦に出ました。この作戦、今までお父様とお兄様、国王陛下や王妃殿下まで。勝率は九割と高いのです。


 アレクシス様は顔を赤くして、うぅと唸りました。後少しです。あと一歩、押してみましょう。


「アレクシス様、妖精さんは私を守ろうとしたのですわ」


「……そういうことにしておこう」


 あら、お父様に対するより効きが悪いですね。最近のお兄様くらいでしょうか。


 唯一口を塞がれなかった男爵家の執事が、二人の助命嘆願を始めました。許して欲しいようですが、なぜ許されると思ったのかしら。


 情報通のお母様経由で、ある程度の話は聞いています。執事のアントンも教えてくれました。メランダル男爵家のご家族は、手柄を立てて出世した末っ子に金品をたかろうと考えました。でもアレクシス様はお断りになった。


 お屋敷も資産も、レードルンド辺境伯家の財産だからです。次の世代へ引き継がれるべきと一刀両断になさった。貴族として当然の考えです。女性は特にそうですが、嫁いだら実家の財産は当てにできません。婚家の資産を実家へ持ち出すことも、厳禁でした。


 どうしても必要なら、夫や実家の当主の許可が必要なのです。断られたら、そこで話は終わりになるべきでした。しかしご実家の家族はそれが理解できなかった。いくら男爵で地位が低くとも、貴族です。頭がおかしいのではありませんか?


「アレクシス様は私の夫になる、大切なお方です。暴言は一切許しません」


 宣言した私は、公爵令嬢らしく傲慢に振る舞いました。私のところへ、取りなしを頼みに来られても迷惑です。実家でもツケで買い物をしたがる親族が発生しましたが……お母様は毅然と対応しておられました。


 これが女主人の仕事ですもの。家計を預かる以上、屋敷内での采配は相応の厳しさが必要です。


 もごもごと口が動きますが、彼らはまた汚い言葉を吐いたようです。妖精達がダメと示すので、封じた口はそのままに致しました。

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