53.アレを受け入れるのが妻の大切な役目

「「ぐっすり?!」」


 お二人の声が重なって、びっくりしました。思わず話が途切れます。カミラ様は額に手を当てて天井に向かって「あり得ない」「この年齢で?」と呟きました。


「本当に眠っただけなのね?」


「はい。教えの通り殿方にお任せしたら、朝までしっかり眠れました。腕枕って温かいんですのね」


 お母様とカミラ様はベッドへ倒れ込み、私の背後で何やらひそひそと話し始めました。すぐに起き上がり、二人は私も一緒に倒します、髪形が崩れますし、お化粧がシーツに付いてしまいそうですわ。


「これから教える話をきちんと覚えなさい」


 厳しいお声なので、私はまた作法を間違ったのかも知れません。大きく頷いた私は、その後のお話に目を丸くするばかりでした。


 一夜を一緒に過ごすとは、ぐっすり眠ることではなく……裸になって抱き合うそうです。その際、殿方のアレを女性の体に入れるのだと。どこに入れるのか具体的な説明はありませんでしたが、おそらく入れるなら穴……つまり口でしょうか。一番大きく開いて迎えられそうです。


 なるほど、お口からアレ経由で赤ちゃんの種をもらい、お腹の中で発芽させて産むのですね。生む場所が股の間なのは存じております。以前、いきなり血が出て焦った時に、侍女エレンに教えてもらいました。


 体の中を通り抜ける間に、赤ちゃんの種は大きくなる。つまり、お腹に長く滞留するのは、私が食べた栄養を一緒に吸収しているから? なんてこと! 妊婦さんがお腹を大切に守る理由が分かりました。


「理解できましたか?」


「はい。大丈夫です。アレクシス様のアレを受け入れるのですね」


「そうです。アレを……最初は少し苦しかったり痛いかも知れませんが、受け入れるのが妻の大切な役目です」


 お母様の説明は分かりやすかったです。殿方のアレ、とは……剣に例えておられたので、きっと立派な指のことでしょう。太くて節くれだった部分があり、先端が通ればツルンと飲み込める。あの表現からしても間違いないですわ。


 にこにこと頷く私に、お母様は額を押さえて「どうしてこんなことに」と嘆きました。ごめんなさい、私も勘違いしていたのです。誰も指摘してくださらないし、直接的な表現で伝えてくれないので、ずっと間違えておりました。


 赤ちゃんの種は、指で摘んで口の中に植えるのでしょうか。この辺も含めて「殿方にお任せすれば」に繋がる部分かしら。


「レードルンド辺境伯閣下は、よく我慢なさったわ。紳士的で騎士らしい方ね」


 カミラ様が褒めてくださったので、嬉しくなって何度も寝室での優しい振る舞いを話しました。


「そこまで我慢させたなんて……どれだけ残酷なの」


 嘆くお母様を、カミラ様が慰めます。私が無知なのがいけないのですね。反省しますわ。お子様をお持ちの女性は皆、赤ちゃんの種を植えてもらった人。王妃殿下もそうなのでしょう。


 ようやっと私も令嬢達と恋の話ができそうです。皆様が私をお誘いにならなかったのは、知識が間違っていたから。そう仰ってくださったらいいのに。奥ゆかしい方ばかりなのですね。

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