06.ヴィーは私の婚約者だ
「なるほど、こういうことか」
アレクシス様の纏う空気が冷たくなりました。背筋がぞくっとしたので、これ幸いと腕を絡めて密着します。筋肉は温かいので助かりますわ。これは弱者を守る英雄モードに入ったのでしょうか。私が触れると照れるのに、今はご自分から手を伸ばして触れて来る。
ぐいと私を抱き寄せ、アレクシス様がにやりと笑います。傷が引き攣れて、まるで悪役のよう。御伽話の魔王っぽくて惚れ惚れしますね。微笑み返す私に、ちょっと引いた様子ですが、彼は言い寄る三人を突き放しました。
「ロヴィーサ……いや、ヴィーは私の婚約者だ。女神様の許可を得て、国王陛下より託された妖精姫を……そなたらは奪おうと申すのか」
婚約したから、ヴィーと呼んでくださるのですね。アレクシス様のお気持ちはしっかり受け取りましたわ。私、必ずやあなた様の誇る妻になってご覧に入れますわ。感動した私は彼の逞しい腕に絡みつきました。
「貴様のように醜い男は彼女に似合わない!」
「そうだ、大公である私の方が相応しい」
「それを言うなら、俺だって第二王子だ」
それぞれに騒ぎ立てる三人は、品性も理性も感じられませんね。野良犬だってもう少し可愛く振舞うというのに。こうやって揉めるから、国王陛下は私自身が選べるようにしてくださいました。そのために各国へ根回しして、希望者に目の前で確認させる。
脅迫されたのではなく私が自分で選んだことを証明するためです。女神様を祀る神殿の契約陣の上で、宣誓して愛する人の名を口にしました。そこまでして、まだ騒ぎ立てるなど! いらっとした私の被る猫が、一匹また一匹と尻尾を巻いて逃げ始めました。
「もう一度お話ししましょうか。私がアレクシス様以外の殿方と結婚することはございません。もしこの方に拒まれたなら、私は命を絶つ所存ですわ。従って、無理に娶ろうとなさる行為は……私を殺すのと同じこと」
思わし気に視線を伏せる。さらりと流れた淡い金髪が表情を隠した。本当に便利ですわ、この髪質のお陰で口元の笑みが隠せるんですもの。次に余計な発言をした者を叩きのめすつもりで、ぐっと拳を握った。ただのか弱いご令嬢だと思ったら大間違いです。
かつては竜退治にも同行した実力派ですのよ。ふっと息を吐いて体の余分な力を抜く。抱き寄せたアレクシス様の腕がぴくりと動いた。
「っ! 痴れ者が!!」
吐き捨てたアレクシス様が盾になり、同時に攻撃を仕掛けた。醜い悲鳴と同時に、マントに包まれた私はのそのそと顔を出す。折角攻撃準備をしたのに、前が見えずまったく動けませんでしたね。
剣を抜いたのは第二王子で、公爵令息は魔法を使おうとしたのかしら。大公閣下も剣を抜いていたんですね。三人とも仰向けに倒れていました。慌てた様子で、隠れていた側近達が駆け寄る。魔法の痕跡はないので、どうやら腕を一振りし、風圧で倒したようですね。竜殺しの英雄を甘く見た結果でした。
「大変……失礼いたしました」
さすがに全部見ていた側近達も、それ以外の言葉は見当たらなかったみたい。一方的に蔑み、私を奪おうとした結果、改めて私に拒まれ、婚約者である辺境伯に叩きのめされた。国王陛下が付けてくださった影もそう報告するでしょう。問題は一切ありません。
「失礼した」
「いいえ。ありがとうございます」
淑女は守られるもの、そう考えるアレクシス様はぎこちなく私を抱く腕を離そうとする。慌ててその腕を掴み、抱き締め直しました。もちろん、胸を押し付けてアピールしながらですけれど。真っ赤になるアレクシス様、こんなにお強いのに女に弱いなんて。嬉しい誤算ですわ。
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