第18話
「……え?」
利子が出した二枚のカードを見た未来は驚愕した。
本来なら未来が見てる視界には危険なものには黒い靄がかかり、鼻をつんざく匂いがして、もう一つ、即ち安全な物には何もかからないし、匂いもしないはずなのに、なのに今未来が見ているカードには二つとも何もない、匂いもしないただのカードなのだ。
これらのことから未来は、利子の狙いを読み取り。
「あんたね、どっちも普通のカードって、本当にいい加減に──」
「へえ、未来にはそう見えてるんだ。それなら、これはどうかな?」
「うっ⁉」
利子がニヤリと嫌な笑みを浮かべながら口にした途端、未来の嗅覚が過敏に反応する。
何もなかったはずのカードから、今度は二つのカードから危険の信号を検知している。何が起こっているのかわからない。未来は思考が纏まらないまま視線を泳がせている。
この女は間違いなく、勝負しに来てる。そして、何らかしらの方法であたしを惑わせている。それが何かはわからない、だけど、それならそれで少しでも危険の香りが強い方を避ければいいだけの話。
そして、未来は自身の体質に素直に従い、自分が感じている危険な匂いが少ない方に手を差し出し──カードを抜き取る。
勝った。そう思っていた未来の手元には……。
「──え、何で?」
未来の手元にはまるで未来を嘲り笑う顔をしたピエロのマーク、つまりジョーカーが未来の手の中にあったのだ。
「だから言ったでしょ? 全然ダメだって」
利子はそう言いながら、自身の手元にあるもう一枚のカードを未来に見せる。
そこには未来の手の中にあるカードと同じピエロマークのジョーカーがあったのだ。
それを見た未来は怒り狂って利子に問い詰める。
「イカさまじゃん!」
だが、未来の怒りもどこ吹く風といった様子で、利子は。
「え? そうだけど?」
「…………」
利子は何を言っているの? と言わんばかりにキョトンと首を傾げている。
未来はその顔に何も言い返せず、無言でいた。
「確かに今は種明かしをしたけど、これがもし──本番だったら? 未来はそれでも同じことが言える? でもまあ、言ってもその頃には遅いんだけどね」
「…………」
利子の言葉が胸に突き刺さる。確かに今のゲームが本番だったら、未来の命はそこまでとなってしまう。
「イカさまとかそういう話じゃない。ゲームってのはさ、始める前から駆け引きは始まってるんだよ。相手の心理状態、思考、瞳孔の開き方、癖を一早く見つけた人が自然と勝ち残っていくんだよ、だから、未来には──無理なんだよ」
「なんで……なんでだよ……」
「未来の体質は確かに凄い、でも完璧じゃない。さっきも私の顔付きや、カードを持つ手の力で簡単に翻弄された。そもそも、私この勝負の時シャッフルしてないよね? 基本的に新品のトランプは箱から出した状態で一番下に二枚のジョーカーが並んである。私はそれを取って見せただけ」
「…………」
利子の言葉に付いていけない未来。
彼女は一体何が言いたいのかさっぱりわからない。けれど、自分が無能なのは重々理解できた。
「まあ、簡単に言うとね……知らなかったでしょ? 知っていればさっきの勝負はそもそも勝負にすらならない。だけど、私はあらゆる策、行動を以て未来を欺いた。これが生き残るための私の武器だよ」
そう、未来と利子の決定的な違いはそこにある。
物事を知っているかいないかでは大きく変わるのだ。それを知っていれば一歩でも周りより早く行動ができる、準備ができる。このデスゲームを生き残るためにはその些細な一歩が大きな一歩、いや、必勝を捥ぎ取る一歩にもなりえるのだ。
「……」
未来から言葉は出ない。
自分の中に眠る復讐の心が、目的が今の一瞬で不可能に見えてきたからだ。
運営を潰すだ、未来を未来の両親を嵌めたあいつに復讐するにもまずはこのゲームを生き残らなければいけないのに、なのに、自分は目の前に居る同年代の少女にも勝つことができないでいるのだ。
悔しさからなのか、自然と未来の瞼から雫が落ちる。
それを見ていた利子が。
「せいっ!」
未来の頭上にチョップを食らわしていた。
「痛っ」
「はぁ、人の話は最後まで聞きなよ。確かに未来じゃあその目標は叶えられないと思う。だけどね、私と二人なら叶えられる」
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