第15話起源<オリジン>

 普通の街で、普通の家庭で生まれ育った一人の少女が居た。


 彼女の名前は水瀬未来。当時十四歳だった彼女はとても明るく活発な女の子であった。


 そんな彼女に転機が訪れたのは、忘れもしないクリスマスの日。いつものように自宅で飾り付けをしていた未来の元に両親が真剣な面持ちで語りかける。


「未来、実はなお父さんたちには多額の借金があるんだ。それを返すためにお父さんとお母さんはこれからある場所に行かなくてはならない」


 未来には両親の言っている言葉の意味がわからずにいた。


 多額の借金があるとは思えないほどに普通の暮らしができていたわけで、何ら不自由も感じることなく生活していたのに。


 更に、両親から焦りのような表情を見ていたわけでもない。そんな中、いきなりそんなことを言われても当時の未来には想像ができなかった。


「だから、もし、もしもだ。私たちに何かあって家に帰ることがなかったらその時は──翔たちを頼んだよ」


 そして──。


 そのクリスマスの夜に未来の両親は家を出て……未来の元に帰ることはなかった。


 それからというもの、高校生になった未来の元に如何にもガラの悪い男がやってきた。


 その男から渡された紙には両親が背負っていたであろう借金の総額が記された紙が未来の元に渡された。


 借金総額──二千五百万。


 当時の未来には両親が背負った借金の理由がわかっていた。両親が家を出た後、未来は両親が使用しているパソコンにアクセスして、その少し前にとある企業と取引していた形跡があったのだ。


 そこから未来が導き出した回答は──。


 詐欺である。


 両親は取引していた企業に嵌められ、そして多額の借金を背負うことになったのだ。


 未来は両親の借金を支払うことになり、普通の仕事をしていては当時十六歳の少女にはとても払える金額ではない。


 そして未来は自身の立つ舞台を表から──裏の世界に移したのだ。


 未来が主にしていたことは受け子である。


 グループの人間が幾つもの役職に別れ行動することにより効率化と一斉摘発を防止する仕組みだ。


 主に指示役と呼ばれるリーダー的存在から掛け子、受け子、出し子となっていて、利子は掛け子の人間がいわゆる振込詐欺をさせるターゲットから直接お金を受け取る役目を担っていた。


 未来がその役目に抜擢されたのは他ならない。


 未来の特異体質があったからだ。


 最初は何か嫌な気がする。そんな程度だったのだが、回数を増すにつれ、その武器は磨かれていったのだ。


 事実、詐欺による摘発で一番逮捕率が高いのが受け子なのだ。


 詐欺のターゲットになった人間が不振に思い警察に通報するケースがここ近年で倍増し、詐欺グループの逮捕率が激増している中、未来は一度も捕まったことがなかった。


 警察に通報する、つまり未来に逮捕の危険があることを未来は瞬時に判断できたのだ。


 最初はグループの仲間も半信半疑で信じてはいなかった。


 けれど、未来が危険だと判断し、その代わりに違う人物を抜擢すると、面白いようにその代役を担ったものが捕まって行ったのだ。


 未来は確信していた。この体質を利用できれば両親の多額の借金を完済するのにそこまで時間はかからないと……。


 だが。


 現実はそう甘くはなかった。

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