第13話

 その言葉に聞く耳持たぬまま、利子は制服のポケットから取り出した用紙に今しがた未来から採取したを用紙に押し付けていた。


 その行為に未来はその用紙を奪い去り、そこに記されている内容に未来の目は驚きに満ちていた。


「白戸利子(以下「甲」という。)と水瀬未来(以下「乙」という。)とは、運営側観衆の元甲に対し乙が本契約を結んだことをここに書す。第一条 甲に対し乙はこの全てのゲームが終わるまでの間ありとあらゆる裏切り行為を禁止とする。第二条 甲に対し乙はいかなる命令にも服従し従うことをここに誓う」


 そしてそこには未来の名前に加え、先程採集された未来の指紋が書類に押されていた。


 未来は今も何が起きたのか理解できずに視線が泳いでいた。それと対照的に利子は不敵な笑みを浮かべて一歩未来に近付き。


「俺を──できると思ったか? 残念だったな」


 未来は後悔した。


 まさか、自分の狙いは最初から見抜かれていたというのか。


 だが、一体いつ自分の狙いがバレていたのか皆目見当が付かない。


「お前の最初の印象は動体視力がずば抜けていると思っていた。まさか、神経衰弱で一度もミスをせずカードを揃えるなんて普通じゃ有り得ない。けど、今この瞬間に確信を得た」


 それは一体何なのかと、未来は言葉の先を促す。


「お前は動体視力が良い訳じゃない。お前は──危険なものを察知するがずば抜けているんだとな。最後に俺を見た時俺の危険な匂いを感知して一歩後退りしただろ? さらにお前の笑みはうまく隠しているようだがまだ甘い。人間の口角は本当に笑顔になるときと愛想笑いでは口角の角度が異なる、これは意識しても近づけることはあっても本物にはならない。結局は演技でしかないんだよ」


「でも、あたしがあんたを利用するために動いていた説明が不十分でしょ⁉」


「理由か……自分で気付かないのか?」


「何が言いたいんだよ」


「俺の心配をしているなら、何故、俺との勝負に乗った? 普通なら少しでも俺の敗北のリスクを減らすために違う相手と勝負するはずだ。なのに、お前は何の躊躇いもなく俺との勝負に乗った。つまり、お前は俺の心配なんか端からしていないってことだ」


「…………」


 完敗だった。


 彼女には全てがバレていたのだ。自分の特異体質もあっさり見抜かれ、あまつさえ完全に出し抜かれていた。


 だが、未来もバカじゃない。


 ゲームが始まる前に会話をした白戸利子とは全くの別人となった彼女は一体誰なのかと。これを聞かないわけにはいかなかった。


「……あんたは誰? 本当に白戸利子なの?」


 その言葉に利子は憎たらしいまでの笑みを浮かべながら、デバイスに何かを打ち込んでいた。


「俺か? 俺は者だ」


「……どういうこと?」


「まぁ、追々話すよ。これからは互いを信じあう頼もしきパートナーなんだからな?」


「くっ……」


 何がパートナーだ。こっちを一方的に縛り上げておいて、互いを信じあう? あたしにはできなくてもそっちには容易くあたしを切り捨てることが可能じゃないかと、未来はその息を吸うように、まるで日常生活を送るように出てくるペテンに寒気が止まらなかった。


「……え? ちょ、ちょっ、どうしたお前」


 気付くと未来の目から涙が溢れていた。本人も自覚していなかったのか、自分の涙に驚きつつそれを拭う。


 しかし、涙が止まることはなかった。


 それに困惑しつつ、頭を掻きながら利子は紙紐を解いた。


 髪を解き俯いていた利子が目を開き、今なお目の前で涙を流す未来には目もくれずデバイスに神経を注いでいた。


 そして──。


「──っ⁉」


 涙を流す未来をそっと包み込むように利子は未来を抱きしめながら耳元で囁く。


「大丈夫だよ未来。私は未来を無下に扱わないって約束する。だから──二人で生き残ろう」


 利子の言葉に先程感じた寒気はなく、未来の心は逆に温められるようなそんな安心できる優しい声音に未来の心は利子に心酔していく。


 一連の流れを見ていた管制室のユキネとクルミは顔を引きつらせていた。


「いや~、今までの参加者にこんな要求してきた人居ます?」


「私の記憶の中でも彼女が初めてよ。まさか、プレイヤーがプレイヤーをで縛り付けるなんて考えたこともなかったわ」


「先輩のグループはかなり曲者が居る感じですかね?」


「さあ、それはまだわからない。けれど、白戸利子、彼女はマークする必要があるわね、それに彼女の食えない所は、他の参加者には見えないように振る舞っている所ね。あの角度からではただ女子高生が戯れているとしか見えないもの」


「それにあの言葉なんですか? とても一人のプレイヤーを隷属させた人間には見えませんよ」


「そうね。彼女は天使の顔をした悪魔ってところかしらね」


 最後に言葉を残し、ユキネは利子たちのグループの元に足を運ばせた。

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