第10話

 注目を浴びる中、自信をもってヒットを宣言すればバストを出し、バストじゃなければ負けると表情仕草が変わっただけで何一つとして変わっていなかった。


 ただ、一つだけ変わったことがあるとすれば……今も尚飯島流星に向かって言葉をかけている利子。


「ところで一つ気になったんだが、ブラックジャックは完全なが作用するゲームだ。そして、更にプレイヤーが有利にゲームを行える珍しいゲームだ。ディーラーは持ち札が十七以上になるまでヒットし続けなければならない。それに付随して当然バストする可能性がプレイヤーより高くなるはずだ。だが、おたくは一度もなっていない。凄い強運の持ち主だな?」


「何を言うかと思ったら、利子ちゃんがシャッフルしたんじゃないか」


「そう言えばそうだったな。悪かったよ疑って。あー、そうそう。もう一つ気になってたんだが……」


「まだ何かあるのかい?」


「いや、これも考えすぎなんだとは思うんだけどな、どうしてここにあるチェス盤やオセロ盤は新品なのに──このトランプだけは使形跡があるんだろうなって」


 ニッコリと笑みを浮かべながら告げる利子に飯島流星は表情を変えることなく返す。


「確かにそうだね。気付かなかったよ。よく見てるんだね利子ちゃんは」


 その言葉に利子は「あっそ」と返してゲームに戻る。


 気付けばゲームも終盤に差し迫る。


 最初の時とは大きく変わり、飯島流星の圧勝でゲームが進められている。流石にこの状況でゲームを覆せるとは誰も思ってはいなかっただろう。


 あと少しで傍から見ても美少女の彼女を、その発育の行き届いた豊かな体を弄べると考えただけで飯島流星の頬はだらしなく歪んでいく。


「利子ちゃん、ラスト二回ってところだね」


「そうだな。おいおい顔がニヤついてるぞ? もう勝ったつもりでいるのか?」


「強がりは良くないよ利子ちゃん。俺には勝利の道筋がハッキリと見えている」


「そうかよ。まあいいから早くしてくれ」


 掌をひらひらと面倒臭そうに振りながら、次のゲームを促す利子。


 その様子に管制室の二人は、何故そうも落ち着いていられるのか皆目見当もついていない様子であった。


 飯島流星がカードを渡したタイミングで利子はカードを見ることなく宣言する。



「っ⁉」


 カードを見ることなく告げたコール宣言にいや、その先に眠るカードに心当たりがあるのか飯島流星はその場に硬直してしまう。


「どったの? 早くカード頂戴?」


 しかし不吉な笑みはその硬直を許さない。


「それとも何か? おたくには次のカード、即ち俺の手元に来るカードが見えてるのかな?」


「そ、そんなわけないだろ? 俺がヒットする可能性もあるんだから」


「いや、。あんたの手元にはハートのジャックとダイヤの八が手元にあるんだろ?」


 利子の言葉に飯島流星からにやついた表情は一切なくなり焦燥感が滲み出ていた。


 鋭く向けられる飯島流星の手元には利子の言葉通りのペアが揃っていた。


 ここにきて完全に詰んだのである。


 今この瞬間無理矢理カードを引きに行けば自身のイカさまが証明されてしまう。しかし、その先に眠るカードは……。


 一体何が起こったんだと飯島流星はゲームを振り返る。だが、そこに答えはなくただ自分の圧倒的有利に事が進んでいただけだったのだ。


「まさか、ここまで全部君の思惑通りってことか?」


「さあ? なんのことかな?」


「ふざけるな! 答えろ! どういうことだよ!」


「種明かしにはまだ早いぜ? なぁ、「」さん?」


「なっ⁉」


「まあ、細かい話はゲームの後にしようか。言っておくけど最後のカードすり替えようなんて腹は捨てた方が良い。その時にはこのゲームをずっと監視している運営の人間がいるからそいつに証言してもらうしな」


「くそっ……一体、何がどうなってんだよ……」


「一つだけ教えてやる。あんたの敗因は──

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