第8話

「……私ともう一度、……勝負してもらえませんか?」


「ちょっとあんた──」


 利子が訪れたのは最初にゲームをした飯島流星だった。さらにそこに再戦を申し込んだ利子に怒りを露わにした未来が食いつくのだが、それを飯島流星が片手を上げて制止する。


「あー、そこの君は黙ってて。利子ちゃん本気? 自分の状況わかってて言ってるの?」


「わかってるつもりです! だからあなたに再戦を申し込んでいるんです!」


 利子の真剣な眼差しを向けられて飯島流星は後ろに後退りするように下がるが、その足を止め、利子に告げる。


「利子ちゃんの覚悟はわかった。だけど、俺が再戦をするメリットがない訳よ。ちなみに賭ける金額は?」


「──


「「⁉」」


「私はこれで所持ポイントが底を尽きます。つまり命を賭けています。なので、あなたにも所持しているポイントの全てを賭けてもらいます」


「オールベットって、話にならないね。何で俺がそんな危険な賭けに乗らなきゃいけ

ないんだ」


「私は賭ける金額に付随してもう一つベットをします」


「……で? 何を賭けるんだい?」


「それは──私の体を制限時間内自由にしていいことを条件にします」


「「「「⁉」」」」」


 利子の発言にその場に居る参加者は絶句していた。それはゲーム会場だけに非ず──。


「な、な、何を言ってんのこの子は⁉」


 ダンっとモニターを叩きつけながらクルミが聞こえる筈の無い利子に向かって罵声を浴びせている。


「これはまた大胆な作戦に出たものね。普通に再戦を持ちかけても断られるのがわかっていた。だから敢えて自身の体をもベットにするとはね」


「でもこれで、あの男が乗りますかね?」


「まあ、普通なら断るでしょうね。けど──どうかしら?」


「先輩はあの男がそれを受けると思うんですか?」


「そうね、仮にあの男が絶対に勝てるようにゲームを仕組んでいるのだとしたら? ゲームには勝ち、そして時間内とはいえ女子高生を好きにできるなんて魅力的な話じゃない?」


「じゃあ、何で飯島流星は最初の提案は断ったんですか?」


「それはそうでしょう? だって、白戸利子にメリットはあれど、飯島流星には何一つメリットがない。だから断った。それだけよ」


「ふーん、やっぱり男って獣ですよね~」


「さぁね。果たして獣は


「あ! 動きました」


 モニター越しに映っていた利子たちに動きがあった。


 先程の利子からの提案に暫く悩んでいた飯島流星がゆっくりと目を見開き爽やかな笑顔を向ける。


「いいよ。その条件でやろうか。勝負内容は最初と同じでブラックジャックにする。

これも再戦の条件ってことで」


「…………」


 未来はその爽やかな笑顔を見てこう思っていた。


「何、爽やかな笑み浮かべて女子高生犯そうとしてんだこの変態が!」


 と、思っていた。そんなことよりも。


「あんた自分が言った言葉の意味わかってる⁉」


「うん。わかってる。だって、これに負ければどの道奴隷になって死んだも同然の扱いを受けるんだし、それに女の奴隷なんて使い道は一つだけでしょ? それなら今この現状で一番有効なのは自分の体もベットに乗せること」


「だからって……」


「それに、


「──え?」


 利子の言葉にこれ以上反論ができなかった未来。


 その言葉を発した時の利子の表情が真剣そのものだったからである。死の恐怖からの焦りではなく、明確な勝利を確信した顔付きで未来を見据えた利子の表情でこれ以上の言葉は不要なのだと未来はそう判断した。


 利子も飯島流星と共にゲーム会場に向かおうと足を運ばせていたのを未来は後ろから抱擁して引き留める。


「絶対勝ってきなさいよ。負けたら承知しないんだから」


「……承知しないも何も負けたら私はそこで終わりなんだから」


 未来の抱擁から解放された利子は確かに一歩、また一歩と自身の死に向かい歩き出す。


 利子にとってはもう見慣れたゲーム部屋に辿り着く。先程と同様に飯島流星はトランプを手にしながら、今回の条件に付いてもう一度確認し直す。


「じゃあ確認としてもう一度、今回の賭けはお互いの全ポイント、それに加え俺が勝ったら時間一杯利子ちゃんを自由にしていい。つまり、俺が利子ちゃんに何をしても全て合意と言うことでいいんだよね」


「……はい。問題ありません」


「最後に一つだけ聞いていいかな?」


「なんです?」


「どうして最後の相手が俺なのかな?」


「私は無闇に全員とゲームをしたわけではないです。全員とゲームをしたのは私が勝てる相手を探すためです」


「それで、答えが俺ってわけだ」


「はい。結果的にあなたのゲームが一番勝てそうだったので、それに、ブラックジャックは運が作用するゲームです。他の参加者の人はチェス、将棋だったので私には到底敵いません」


「……そうか、そうだね。あの時は俺がついていただけだからね。今回はわからない」


「えぇ。だから今回はイカさまもさせないようしっかり見ています」


「じゃあ、そろそろ始めるかい?」


「……はい。その前にすみませんが髪を結ばせてください」


 そう言って、利子は深呼吸をして、手首に巻いている水色のシュシュを髪に結び付けた。


 髪を結び、目を閉じながら下に俯き数秒──。


 不意にその口元が不吉に歪み、鋭い眼光が見開かれる。


「Lets mount a counterattack from now on《さぁ、これから反撃の始まりだ》」

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