第7話

 そして。最初のゲームを落としてからの利子は見るも無残なものだった。


 飯島流星とのゲームの後、立て続けに残りのプレイヤーと勝負して全て──に終わっていた。


 利子の残り所持ポイントはわずか十万ポイント。ゲーム開始わずか三十分で自身の「死」が目前に迫っている状況に追いやられていた。


 この結果を見たユキネとクルミは「DEAD OR ALIVE」始まって以来の光景に驚いていたのだ。


「先輩、あの子かなりやばいんじゃないんですか?」


「……そうね、彼女のゲームを全て見返したけれどハッキリ言って……ね」


「ですよねぇ~、一度敗北してからの焦りに駆られて──全員と勝負するなんて愚策もいいとこですよ。先輩のグループは彼女で決まりですね」


「……でも、何か引っかかるのよね」


 そう言うユキネはまたしても先の利子のゲームを見直している。その様子にクルミは首をはてなと傾げながら言う。


「先輩気にしすぎですよ。あれはただの──バカですよ」


「だとしても彼女はどうして……自分からゲームを仕掛けて、そして何故、なゲームで勝負しているのかしら」


 ユキネが抱いた疑念はもっともだ。


 利子は一度の敗北から、焦り気味に次々とゲームを挑んだ。挑まれた側も勝者と敗者なら敗者とゲームをするに決まっている。


 他の参加者も利子からの誘いに躊躇うことなく応じ、そして利子は──尽く敗北を重ねていく。


 ユキネが見た映像に映し出された利子の勝負は誰がどう見てもゲームのルールは理解しているだけのただの素人さながらの動きだった。


「ちょっと、あんた! 何やってんのよ! ここで死ぬつもり⁉」


「…………」


 未来の問いかけに利子はその場で蹲り言葉を返してこない。


 ここからの逆転劇など最早不可能に等しい状況を未来も理解している。だが、そこに至るまでの経緯を未来は理解ができないのだ。


 自身の命が掛かっているにも関わらず、ここまでの醜態をさらすのは異常者のすることだと。


「ここからどう巻き返すつもりなの? ここに居る参加者は全員一度ゲームをしているから再戦を申し込んでも対戦してくれないと思うわ……よ?」


 未来は自身の発した言葉に疑問が浮かんでくる。


 このゲーム一度は誰かと対戦しなければならない。まさか、彼女はわざと全員と戦いそして負けたのか? と、参加者を死の恐怖から解放させるために自分を犠牲にしたのかと、だが、それは考えすぎだとも思う。それでは犠牲になった彼女はなんなのかと。


 そんな正義のヒーローはこのゲームでは生き残れない。それは彼女も理解しているはずなのに、なのに何故こんなことをするのか……。


 未来はそんな思考を重ねながら、不意にその思考が停止するのがわかった。


 それは──今も必死に利子の行いについて意味を見出そうとしていた未来の視界の先には俯きながらも邪悪な笑みを浮かべている利子の姿があったからだ。


「あんた……狂ってるよ。この状況でどうしてそんな顔していられるのよ⁉」


「狂ってる? そうだね、狂ってるかもね。でも、こんなゲーム、狂ってでもいないとやってられないでしょ? これはだよ?」


 利子と未来が話し続けていると残り時間は無慈悲にも進んでおり、ゲーム終了まであと残り三十分と記されている。


 その画面を見た利子は未来との話を途中で遮り、一人、とある人物の元に歩み寄っていた。


「あの、すみません」


「ん? どうしたの? 利子ちゃん」


「……私ともう一度、……してもらえませんか?」

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